199 芥川城へ【地図あり】
「傳兵衛様!三左衛門様より、勝龍寺城は細川兵部大輔殿に任せ、芥川城へと向かうようにとの事に御座います!」
親父の家臣である尾藤又八重房が、知らせにやって来る。
殿の本隊が到着し、攻め落とした勝龍寺は細川兵部大輔殿に任せて、織田家は更に南西へ向かう。
高槻城や普門寺城は本隊が相手をし、俺たちは少し外れた所にある芥川城(芥川山城)を攻める事になった。
「承知した。内蔵助、至急兵を纏めよ」
「はっ!」
兵の事は斎藤内蔵助に丸投げしておいて、又八に芥川城の事を聞く。
「ところで、又八。芥川城に誰が入っておるか聞いておるか?」
「今は分かりませぬが、城主の三好日向守の他にも小笠原信濃守等がおられたとは思いますが…」
小笠原信濃守…小笠原長時だな…やっぱり居たのね。
「又八は、信濃守がどの様な人物か知っておるか?」
「申し訳御座いませぬ。あまり覚えておりませぬ。父ならば存じておりましょうが…」
小笠原家に仕えていた尾藤源内なら、よく知っているか…
「城攻めの前に源内の話を聞きに行くやも知れぬと伝えておいてくれ」
「はっ、承知いたしました」
兵を纏めて摂津国の芥川城へと向かい、城の直ぐ近くの天神馬場に陣を敷く 。
暫くして、物見を命じていた曽根内匠助が戻ってくる。
「芥川城には三好日向守、小笠原信濃守、細川六郎殿等が入っておる様。それと普門寺城の富田武家様は、既に小清水城へと落ちられた様に御座います」
ふむふむ、芥川城には三好長逸、小笠原長時、細川昭元がいて、普門寺城にいる足利義栄は既に小清水城(越水城)へ逃げたと。
義栄は、本来なら来年だった殿の上洛直後に亡くなっているが、これからどうなるんだろ?
まあ、今はそれは置いといて、芥川城の方だな。
勝ちが決まっている戦いなら、改めて何か仕掛ける必要はないとは思うのだが、結果が同じなら何か仕掛けて点数を稼いでおくか…
「父上の所へ行く。内匠助、鵜八と甚右衛門も付いて参れ」
曽根内匠助と大島鵜八光義と尾藤甚右衛門重直を連れ、親父の所へ向かう。
親父の所へ向かうと、四将(森可成、柴田勝家、坂井政尚、蜂屋頼隆)が集まって、芥川城の事で話し合っていた。
「父上、物見が戻りました故、報告に参りました」
「して、如何であった?」
親父等の質問に、物見に出ていた内匠助が答えていく。
「ふむ、傳兵衛殿には何ぞ腹案がお有りか?」
歌道仲間である蜂屋兵庫頭頼隆殿は、俺が何か企んでいるのかと聞いてくる。
「いえ、芥川城に小笠原信濃守が入っているとの事でしたので、先ずは旧臣である尾藤源内にどのような人物であるか話を聞きたいと思いまして」
そう、先ずは源内に信濃守の為人を聞いてからじゃないと作戦の立てようがない。
「ほう。では傳兵衛殿がどの様な策を思い付くのか楽しみにしておこう。出来れば我等の活躍の機会も欲しいところだな」
だから、策なんて考えてないちゅーとるやろ。
「既に逃げ腰の三好などに策を用いる必要など無いとは思いますが…左馬頭様が御越しになられる前に、どこまで行けるか試したいと思いまする」
どうせ敵は逃げるか降伏するかだろうから、余裕があれば勲功稼ぎに色々試したって良いじゃない。
尾藤源内を呼び出して、小笠原長時の情報を聞く。
「信濃守様は礼法武勇に優れ、特に弓馬の扱いに長け近隣に敵う者なしに御座います」
小笠原流弓馬術礼法とか聞いた事あるなぁ。
やっぱり強いのか…
「しかし、名門の出である事を誇るあまり、周りの声に耳を貸さぬ嫌いが御座います。それ故大軍を率いるには些か不向きかと…」
個人の武は、ずば抜けているけど、プライドが高くて周りを見下しているので、指揮能力は低いという事かな?
こいつ煽ったら、釣り出せないかな?
「降伏を促しても無駄か?」
「恐らくは…」
まあ、降伏を促すだけならタダだし、やっておくか。
ところで小笠原長時と大島鵜八はどっちが強いのかな?
そう疑問が湧いたので、側に控えていた鵜八に聞いてみる。
「鵜八、お主は信濃守に勝てるか?」
「ふむ、流石に騎馬の扱いでは敵わぬやも知れませぬな」
つまり、弓なら勝てる自信があるという事かな…
作中の芥川城は、今の芥川山城の事です。




