192 敵討ちなら今しかないよ
「新左衛門殿、対馬守殿、織田家に降られよ」
三雲城へ赴いて、当主の三雲新左衛門成持と、その父である先々代の対馬守定持を説得にかかる。
「我等は代々六角家に助力してきた。主家が劣勢だからと言って、敵方に降るのは不義理に御座ろう」
新左衛門が結構義理堅い事を言うが、今もまだ様子見しているだけで、六角家の味方もしてないやん。
「既に観音寺城は落ち、六角右衛門督殿、承禎殿は我等に捕らえられ、既に降伏しておられます。不義理とは成り得ませぬ」
「左様。今この時を逃せば、三雲家も攻め滅ぼされましょう」
ひょっとしたら既に観音寺城が落ちた事は聞いているかもしれないが、六角義治と承禎が捕らえられた事までは、まだ知らないだろう。
伴常陸殿も援護してくれる。
「だが某は先年、三好家の軍勢を矢島へ引き入れた事が御座る。左馬頭様は、さぞ御不快に思っておられよう…」
あ~、それがあったか…
「しかし、動かねば更に御不快になられましょう」
常陸殿が説得を続けてくれるが、対馬守の表情は冴えない。
やっぱり討ち死にした先代を出しに使うか…
「それに…今ならば先代の仇である布施三河守を討つ事も叶いまする」
俺の言葉に、二人の…特に対馬守の目が鋭くなるのを見て、話を続ける。
「今、某の兵で布施山城を囲んでおります。もし、新左衛門殿が織田家に付いていただければ、三雲家にも兵を出して頂き、布施三河守の首を御譲りしたいと存ずる。しかし、このまま日和見を続けられるのならば、降伏を呼び掛ける事となりましょう」
「布施三河守に御座るか…」
「浅井備前守は此度の上洛の一翼にて討たせる訳には参りませぬ。和田山城へ出陣していたらしい布施淡路守は、恐らくは既に降伏しておりましょう。残るは三河守のみに御座る。しかし、それも時間の問題。某の兵が刻を稼いでおりますが、それも長くは保ちますまい。三河守を討つなら今しか御座らぬが、如何か?」
対馬守は答えず、ギュッと目を閉じている。
まあ、布施淡路守公雄が本当に降伏しているかは知らないが。
史実での上洛時に、布施淡路守は降伏したとあり、布施三河守…というか布施山城は抵抗したとあったから、確実に敵対するであろう三河守の布施山城を囲ませているんだが、ひょっとしたら淡路守も一緒に抵抗した後で降伏したのかもしれない。
今は調べている時間は無いし、正直どっちでもいいんだけど。
「兄の仇である布施三河守の首を頂けるならば、織田備後守様に降りましょう」
父親の気持ちを慮ってか、当主の新左衛門が答える。
「新左衛門!」
「父上、確かに今を於いて兄上の仇を討つ機会は御座いませぬ。本当は父上も布施山城へ向かわれたいのでしょう?既に右衛門督様は捕らえられ、織田家に降るか、このまま滅びるかしか御座らぬ。折角、傳兵衛殿が兄上の仇討ちの機会を下さるというのです。父上は御家の為にも己の為にも、布施山城へ向かうべきに御座る」
息子に指摘され対馬守は黙り込む。
「傳兵衛殿、某は織田軍と合流して青木家を攻めまする。布施山城へは父が向かいます故、宜しなに御願い致す」
新左衛門が織田家に降る事を決めてくれる。
「有り難い。では対馬守殿は急がれた方が良かろう。某の兵は精強にて、何時三河守が自刃して果てるとも限りませぬ」
対馬守に布施山城へと向かう様に急かす。
「常陸殿は対馬守殿を布施山城へお連れ下され。半右衛門も同道し便宜を図れ。俺は一旦、神戸蔵人大夫殿の元へ向かう」
道案内の常陸殿と井上半右衛門を対馬守に付けて、布施山城を攻めている兵との連絡役にし、俺は青木家を攻略中の神戸蔵人大夫殿の元へ進捗具合の確認と三雲家の参戦報告の為に戻るか。




