186 右近将監と仲良くしよう
さて、親父達に観音寺城の攻略を押し付けられた。
う~ん、六角親子に逃げられると、後々甲賀郡で抵抗勢力になって面倒臭いんだよな。
逃げてきた六角親子を奇襲で討ち取って、後顧の憂いを取り除いておきたかったのだが、親父達はちゃんと討ち取ってくれるだろうか?
まあ、親父達がやるって言うなら仕方ないな。
城攻めの準備でもするか…でも、観音寺城って無血開城したんだよな?
六角親子の脱出前に無理矢理攻めて、被害を出すのも馬鹿らしいよな。
流石に親父と権六殿が伏兵をやりたいと言っても、勝手にやる訳にはいかない。
観音寺城の攻め手を任されているのは、森家や柴田家だけではない。
当然他の将、坂井右近将監殿や蜂屋兵庫頭殿にも作戦の了承を得なければならない。
そこで本隊は城の南側にある城下町である石寺を囲みつつ、観音寺城にプレッシャーを与えて六角親子が反対側の桑実寺方面から脱出する様に仕向け、そこに兵を伏せて捕らえるなり討ち取るなりするという作戦を提案する。
六角親子が脱出しなければ、石寺を焼き払って観音寺城を攻める動きを見せ、それでも駄目なら北側も塞いで攻め上がる。
「しかし、本当に城を捨てるか?」
「恐らくとしか言えませぬが、今までの六角家の戦い方から、籠城はせずに甲賀へ逃れると思われまする」
右近将監殿は疑問を呈するが、俺はこちらの方が確率は高いと説得する。
「まあ、よかろう。万が一、六角家が城を捨てずとも、我等の兵で十分城は落とせよう。楽に落とせるのであれば、やるだけやってみて、損はあるまい」
右近将監殿も納得してくれたのか、やる気にはなってくれた。
「ふむ、しかし伏兵にばかり兵を割く事は出来まい。あまりに本隊の兵が少なければ警戒もされよう。某は右近殿や傳兵衛殿と石寺を囲む事としよう」
兵庫頭殿は俺と共に石寺を囲んでくれる様だ。
「では、右近将監殿と兵庫頭殿が兵を率いて石寺を囲み、権六殿と父上が城の北に兵を伏せ甲賀へ逃れようとする右衛門督等を捕らえるという事で宜しいか?」
四人に問いかけると、皆「異存なし」と返してくれる。
「右近、お主は指を咥えて我等の活躍を眺めておるがよいわ」
「はんっ!右衛門督に逃げられて、醜態を晒す事のない様にするのだな」
親父と右近将監殿がやりあっているが、本当に仲が悪いのだな。
散々言い合って親父は権六殿と共に、兵を伏せる為に出ていく。
「右近将監殿、父が申し訳御座らぬ」
どっちもどっちだが、一応謝っておこう。
右近将監殿が出世して、親父が志賀の陣で討ち死にするのを防いでくれるかも知れないし…期待してないけど。
「いや、儂も大人気なかった。三左衛門とは、つい口論になってしまう」
おお、大人の反応だ。
それに引き替えウチの親父ときたら…
「父は右近将監殿にだけは負けたくないと思っておるのでしょう。それだけ右近将監殿の事を評価していると思い御寛恕いただきたい」
「儂と三左衛門との問題だ。其方が気にする必要はない。しかし、三左衛門も出来た息子を持ったものだな。儂の子も、そうあって欲しいものだ」
親父と右近将監殿は兎も角、俺と右近将監殿の関係は、なんとか大丈夫そうだな。
右近将監殿は、殿から自分の息子とウチの妹を結婚させろと命じられると、両家の関係を考え、自分から親父に頭を下げて頼みに行ったという話があるらしいから、親父よりは大人な判断の出来る人なんだろう。
それと、その右近将監殿の息子である久蔵の事か。
親父と右近将監殿ではなく、可隆が久蔵を嫌悪していたって話もあったな。
まあ、初陣の遅れていた可隆が久蔵に対抗心を持っていたとかなんだろうが…
お互いに嫌いあっていたら、どうしようかな。
「久蔵殿でしたな。たしか今、十三でしたか…」
「うむ、今は殿のお側に仕えておる。来年には元服出来よう」
史実では上洛戦に参加していたはずだが、一年早まっているので、元服前で不参加となっている様だな。
姉川の戦いで討ち死にしてしまうから、何か手を考えた方がいいのかな?
俺と親父に右近将監殿と久蔵。
場所は違えど同じ1570年に討ち死にする二組の親子だから、ちょっと考えてしまうな。




