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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
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185 六角攻め開始【地図あり】

 五日後、佐和山城を出て愛知川を渡り、三軍に分かれてそれぞれ箕作(みつくり)城、和田山城、観音寺城を目指す。

 どうやら高野瀬秀隆の情報に間違いはないようで、敵は和田山城に主力を集めているようだ。


 敵の主力が集まっている和田山城には、西美濃三人衆を始めとする美濃衆が、観音寺城にはウチの森家の他に柴田、坂井、蜂屋家が向かう。

 そして、殿や佐久間、滝川、木下家などの織田家の諸将率いる本隊と松平信一率いる徳川家からの援軍が箕作城へ攻め込む。

 他にも、鈴鹿峠を越えて、神戸家や岩室家、斎藤内蔵助と曽根内匠助が率いている俺の伊勢衆などが、甲賀郡へ攻め込んでいるはず。

 ちなみに浅井軍は、未だ日和見している近江の国人衆の牽制の為に肥田城(高野瀬秀隆の城の一つ)でお留守番だ。


 俺達の役目は、箕作城を攻める殿の率いる本隊が戻るまで、観音寺城の部隊を釘付けにしておくこと。

 のんびり待っていれば良いだけの御仕事だ。


 しかし、俺は知っている…

 箕作城は藤吉郎の夜襲で夜明け前に陥落し、それを知った和田山城は戦わずに逃亡、観音寺城の六角親子は闇に紛れて甲賀郡へと逃げ出すという事を…たぶん。

 待っていれば観音寺城は落ちるのだが(おそらく)、やはりここは、夜に逃走する六角親子を狙いたいところだ。

 藤吉郎ならやってくれるはず!信じているぞ! 

 まあ、箕作城が落ちなければ、藤吉郎を扱き下ろして誤魔化そう…



「父上。六角家が観音寺城を捨てる恐れが御座います」


「なに?」


 親父と、何故かウチの陣にやって来た権六殿が相談をしている中、城を捨てる可能性があると発言する。


「観音寺城には家臣の曲輪が多く、先の騒動で誰が裏切ってもおかしくない状況。もし何処かの城が落ちるようであれば、右兵衛入道(六角高頼)の例に倣い、甲賀へ落ち延びるやも知れませぬ」


 親父と権六殿が顔を見合わせる。

 史実で観音寺城が落城してから臣従するはずの国人衆達も、既に内通している奴等も結構いる事だしね。

 史実と比べても格段に弱っているはず。


「有り得るな、三左」


「となれば、兵を伏せて逃げ出した所を捕らえたいが…」


 可能性大いにありと思ってもらえたか…


「某が兵を伏せ、六角家に奇襲を仕掛けようかと思いまする」


 すかさず伏兵に立候補する。

 此処で六角親子を捕まえられれば、今後が楽になる。


「いや待て、傳兵衛。儂が行こう」


「はっ?」


「何を言っておる権六。お主は昨年伊勢で暴れておろう。ここは昨年出番の無かった儂が行く」


 権六殿と親父が自分が行くと言い出した。


「何を言っておられる。権六殿と父上は、この軍を率いねばなりますまい。此処は某にお任せくだされ」


 いやいや、指揮官が伏兵率いてどうするよ。

 この本隊、どうする積もりやねん。

 だが親父は、ゆるゆると首を振り、俺を諭すように話しかける。


「傳兵衛、お主が元服してから一体幾つの城を落とした?」


「はっ?」


 質問の意味が分からん。


「大森城に久々利城。それにその前の堂洞城もお主が岸三郎兵衛を降伏させた故の落城だ。昨年は北伊勢でも多数の城を攻め落としておる」


 親父はそう言うが、流石に堂洞城は俺の手柄ではないよ?

 だが、親父の言葉に権六殿も、ウムウムと頷き続けて言う。


「そうだな。今この場におる者の中で、一番城攻めが得手であるのは疑いようもない」


 えっと…この流れは…


「傳兵衛、お主が本隊を率いて観音寺城を攻めよ。城攻めの名手であるお主に、名城と名高い観音寺城を攻め落とす名誉をくれてやろう!」


「うむ、それが良いな三左。城攻めは傳兵衛に任せ、野戦の得意な我等が伏兵を率いよう。此方は未だ傳兵衛にも負けぬ故な」


 二人は互いに頷きながら、俺に城攻めを任せようとするが、流石にそれはない。


「父上や権六殿が伏兵を率いられるならば、城攻めの指揮は右近将監(坂井政尚)殿の役目となりましょう」


 親父達が指揮しないなら、右近将監殿が指揮するに決まっているだろ。

 親父は右近将監殿の名を聞くと、ムッとした顔をして考え込む。

 どんだけ嫌いやねん…


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 斎藤内蔵助にも重要なポジを与えらたこと。三雲まで一気に攻めることはできないかもだが、甲賀郡の圧迫は可能。 [気になる点] この物語では可成でなく坂井将監の方が嫉妬して、息子やまわりに言って…
[良い点] 読んでて、地図が欲しいなーと思っていたら載ってた。 [気になる点] 地図アリと冒頭にあるともっと良いかもです。 [一言] 史実で思ったけど。観音寺城落ちるの早いよなあ…
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