19 又四郎
兼松正吉視点です
尾張国葉栗郡島村 兼松又四郎正吉
「すまぬが、この辺りに織田太郎左衛門殿の家臣で、兼松殿の住まいを知らぬか?」
突然、二人連れの見知らぬ武家に、自分の家を知らぬかと話しかけられた。
自分よりも若干若いか…
父は、織田太郎左衛門信張様に仕える下級武士、おそらく自分の家で間違いはないとおもうのだが。
「この辺りで織田太郎左衛門様に仕える兼松といえば、某の家でございましょうか」
「おお、それは手間が省ける!某、蓮台城城主、森三左衛門様にお仕えする増田仁右衛門と申す。こちらは同輩の山田八郎右衛門。そなたに話があって参った」
蓮台の森三左衛門様といえば、尾張美濃で名を馳せる勇将。
なぜ、下級武士の出である我が家を?
しかも、父ではなく某を?
「此度、森家では、新しく人を召し抱えることとなってな。
嫡男の小太郎様は、大変柔軟な考えを持つお方でな、将来家臣となるものは、頭の固い年寄りよりも、若い者が良かろうと。
そこでなかなかの若武者が居るとの噂を聞き、仕官を勧めに参った」
は?初陣も済ませておらぬ某の噂など一体何処で?
「おお!丁度、小太郎様が来られましたな」
そちらに目を向けると、数人の者たちが此方へとやって来る。
いかん、立ち話など。宅に案内せねば。
「某を森家にでございますか?」
何故、森家より誘いが来たのかわからないが、これは正直有難い。
父が仕える織田太郎左衛門様は織田家の御一門格だが、さほど力はなく活躍の機会も少ない。
身分の高い家ならば構わないが、下級武士の出である身には、槍働きの機会は多い方がよい。
しかし、常に前線におられる森三左衛門様の家臣となれば、武名を挙げる機会も多いに違いない。
「宜しく御願い致します」
父と共に仕官の話を聞き、即座に返事を返し頭を下げる。
父も賛成してくれるので、少し時間を頂き、急いで身支度を整える。
いずれ外へ出ることは相談済みなので、特に何ごともなく家を出る。
何処かの戦で陣借を頼もうと思っていたのだが、此度の話で正直助かった。
聞けば仁右衛門殿らも新しく召し抱えられたそうだ。
流石、勢いのある家は違うな。
小太郎様一行の半数は、此度召し抱えられた者ばかりだそうだ。
だが、八郎右衛門殿は見るからに強そうな体つきをしているし、弥太郎殿も某といい勝負なのではないだろうか。
仁右衛門殿もなかなかやりそうだ。
某も槍働きには自信があったのだが、攻めの三左の家臣ともなると、強者を召し抱えるものだな。
これは、負けられぬな。




