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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
19/554

 19 又四郎

兼松正吉視点です

尾張国葉栗郡島村 兼松又四郎正吉


「すまぬが、この辺りに織田太郎左衛門殿の家臣で、兼松殿の住まいを知らぬか?」

 

 突然、二人連れの見知らぬ武家に、自分の家を知らぬかと話しかけられた。

 自分よりも若干若いか…

 父は、織田太郎左衛門信張様に仕える下級武士、おそらく自分の家で間違いはないとおもうのだが。


「この辺りで織田太郎左衛門様に仕える兼松といえば、某の家でございましょうか」


「おお、それは手間が省ける!某、蓮台城城主、森三左衛門様にお仕えする増田仁右衛門と申す。こちらは同輩の山田八郎右衛門。そなたに話があって参った」


 蓮台の森三左衛門様といえば、尾張美濃で名を馳せる勇将。

 なぜ、下級武士の出である我が家を?

 しかも、父ではなく某を?


「此度、森家では、新しく人を召し抱えることとなってな。

 嫡男の小太郎様は、大変柔軟な考えを持つお方でな、将来家臣となるものは、頭の固い年寄りよりも、若い者が良かろうと。

 そこでなかなかの若武者が居るとの噂を聞き、仕官を勧めに参った」


 は?初陣も済ませておらぬ某の噂など一体何処で?


「おお!丁度、小太郎様が来られましたな」


 そちらに目を向けると、数人の者たちが此方へとやって来る。

 いかん、立ち話など。宅に案内せねば。



「某を森家にでございますか?」


 何故、森家より誘いが来たのかわからないが、これは正直有難い。

 父が仕える織田太郎左衛門様は織田家の御一門格だが、さほど力はなく活躍の機会も少ない。

 身分の高い家ならば構わないが、下級武士の出である身には、槍働きの機会は多い方がよい。

 しかし、常に前線におられる森三左衛門様の家臣となれば、武名を挙げる機会も多いに違いない。


「宜しく御願い致します」


 父と共に仕官の話を聞き、即座に返事を返し頭を下げる。

 父も賛成してくれるので、少し時間を頂き、急いで身支度を整える。

 いずれ外へ出ることは相談済みなので、特に何ごともなく家を出る。


 何処かの戦で陣借を頼もうと思っていたのだが、此度の話で正直助かった。

 聞けば仁右衛門殿らも新しく召し抱えられたそうだ。

 流石、勢いのある家は違うな。


 小太郎様一行の半数は、此度召し抱えられた者ばかりだそうだ。

 だが、八郎右衛門殿は見るからに強そうな体つきをしているし、弥太郎殿も某といい勝負なのではないだろうか。

 仁右衛門殿もなかなかやりそうだ。


 某も槍働きには自信があったのだが、攻めの三左の家臣ともなると、強者を召し抱えるものだな。


 これは、負けられぬな。


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