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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
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170 木下家の北伊勢の報酬【地図あり】

加藤光泰視点です。


 美濃国岐阜 木下家家臣 加藤作内光泰


「作内殿ではありませぬか!作内殿も織田家へ参られたか」


 北伊勢を攻めていた滝川彦右衛門殿と岩室長門守殿等が六角家の裏切りに遭い、大殿は救援の為に援軍を送った。

 当家も援軍として北伊勢へ向かい、坂井右近将監殿指揮の下、員弁郡で梅戸家を始めとする国人衆の城を攻め落としてきた。

 その北伊勢での戦を終え、岐阜へと戻って来たのだが、そこで元同僚の長井半右衛門…いや、改姓して井上半右衛門だったな、に声を掛けられた。


「おお、半右衛門か。久しいな」


「うむ。稲葉山城で会って以来か…済まなかったな」


「何、済んだ事よ。半右衛門殿は森家に仕えておるのであったな」


「うむ、嫡男の傳兵衛様に仕えておる。作内殿は何処に?」


「某は木下藤吉郎様に召し抱えていただいた」


 知行三十石程度の小身ではあるがな。


「ほう、出来者と名高い木下様か。傳兵衛様も木下様の事は気にしておられる様子。此度の北伊勢攻めでも活躍されたそうで。今後の出世は間違いなかろうな」


 であれば良いがな。


「確かに此度の梅戸氏との戦では、一番の活躍をされておられるとは思うがな。今織田家で一番の出世頭と言えば当家の藤吉郎様であろうな。それに比する傳兵衛様の方は如何か?」


 比するとは言うたが、傳兵衛様の方が頭一つ抜きん出ておろうがな。

 殿も、傳兵衛様の事は気にしておられたからな。

 少しでも話を聞いておくとしょう。


「傳兵衛様は相変わらずの活躍よ。城攻めに強い」


「此度の働きで、傳兵衛様は如何程の知行が得られたであろうか?」


 少し調べれば分かる事だ。

 半右衛門も教えてくれよう。


「森家が赤堀周辺で得られる知行の内、半分の四千五百貫程であろうか…まだ、確かな事は分からぬが、それくらいはあろう」


 さて、殿は如何程の知行を得られようか…傳兵衛様と比べて少ない様なら機嫌が悪くなる。



 半右衛門と別れて直ぐに、殿より此度の事で話があると家臣一同呼び出される。


「殿より員弁郡、朝明郡に四千三百貫の知行地を頂いた」


 員弁郡での戦で殿は、大殿より員弁郡に四村、朝明郡に一村の計四千三百貫の地を頂いたようだ。

 これで尾張、美濃の知行を合わせると五千五百貫程になられた。

 召し抱えられたばかりとはいえ、多少の加増はあるだろうか?


「此処は千種家の頭を抑える重要な場所じゃ。新しい城の縄張りも考えねばならぬ。立派な城を築かねばな!」


 新しい領地には、まだ城がない為に、新たに城を築かねばならぬ。

 千種家は逸早く織田家に降り、我らと共に梅戸家を攻め、田光(たびかり)城を落として勢力を広げている。

 千種家の周りを我らで囲み、これ以上の伸長を防ぐのが役割なのだろう。


「皆には済まぬが、城を建てるまで知行の加増は抑えさせてもらう。なにかと、入り用でな。城が建てば直ぐにでも加増する故、皆には済まぬが暫し我慢してくれい」


 ふう、加増は暫く御預けとなったか…

 半右衛門は如何程になったであろうか。


「ところで、小一郎。他の方々は如何程の知行を得られたか存じておるか?」


 やはり他の方々が如何程か気になるのだろう、弟の小一郎殿に尋ねられる。


「聞いた話によると、坂井右近様が員弁郡に六千五百…」


 小一郎殿は、何処からその様な話を聞かれたのか…


「傳兵衛殿は、如何であった?」


「森傳兵衛様は、菰野周辺に五千貫と聞いたが…」


「そうかそうか、初めから北伊勢攻めに加わっておった傳兵衛殿と然程変わらぬな!殿はそれだけ儂の事を買っておられるという事だな!」


 大殿から、傳兵衛殿より重用されているのが嬉しいのか、大層な喜び様だ。

 確かに、殿と傳兵衛様の差は思ったよりは開いてはいないが…

 先程、半右衛門は菰野ではなく赤堀に知行を得たと言っておったが…

 これは、大殿より菰野に五千貫、森家より赤堀に四千五百貫の計九千五百貫の知行地を得られたという事ではあるまいか?


 …殿の喜びに水を差す必要もあるまい。

 黙っておいた方が良かろう…


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 傳兵衛が自分より倍近い知行地もらったと分かれば、発狂するんじゃないかなw
[良い点] 更新及び地図ありがとうございます。 イメージしやすくて助かります。 作内よ、空気読めるのは良いことだ。そして、できる小一郎のことだから、彼も言葉を選んで濁したのだろう。知らないだけかもだ…
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