168 陶工
殿の御許しが出たので、斎藤五郎左衛門と増田仁右衛門を陶工の勧誘に行かせる。
狙うは、尾張の瀬戸にいる加藤景正!の弟!
流石に当主を引き抜くのは遠慮しておこう…殿に怒られるかもしれないし。
当主より弟の方が来てくれそうな気もするし。
加藤景正の次弟の五郎左衛門景豊は、以前に久尻に窯を開こうとして住民の反対にあって断念しているらしいので、久々利に呼んで窯の腕を振るってもらいたい。
ちなみに、加藤景正は個人の名ではなく、代々当主に受け継がれている名だ。
当代は十四代目景正こと宗太夫景茂。
今回の目的は、当代の景正を除く一族、特に大萱の牟田洞窯を開き、国宝『卯花墻』を作ったといわれている五男の源十郎景成の勧誘だ。
もう少ししたら、殿が陶工の保護で何処に窯を開いても良いと許可が出るのかもしれないが、その前に陶工を保護して、良い領主を演じ、優先的に茶器を回してもらおうという魂胆だな。
二人を瀬戸に行かせている間に、俺は土岐郡を治める妻木氏に話を付けに行く。
俺の領地である久々利、小菜田の隣である久尻も窯があったと思うので、そこを治める妻木氏とも利益を分け合って、良い関係を築いていきたい。
何れ陶工が妻木の領地へと出ていくのを防げぬのなら、最初から妻木に話を持っていって恩を売っておこうという事だ。
明智対策も兼ねているので。
都合の良い事に、妻木貞徳は殿の馬廻をしているので、この岐阜城に戻っていて直ぐ会えるので、妻木郷へ向かわなくても良い。
早速アポをとって会わせてもらう。
「突然申し訳ない、源二郎殿」
妻木源二郎貞徳は、俺より八歳年上の二十三歳、まだ若い武将だ。
明智光秀の妻である煕子の従弟に当たる。
父親の広忠は、本能寺の変の時に明智光秀に付いてしまうが貞徳は加担せず、変後に責任を取って隠居するだけで、息子に家督を譲りお咎めなしとなっている。
「これは傳兵衛殿、如何なされた?」
「実は久々利へ瀬戸の陶工を呼ぶことを御許し頂きまして」
「ほう、傳兵衛殿は陶器を作られますか」
まだ、ピンとはきていない様だな。
「此度呼び寄せようとしております、加藤景正の弟は以前、久尻に窯を開こうとして住人の反対に会い断念したとか。久尻は源二郎殿の領地。如何で御座ろう、共に久々利から久尻までの一帯に窯を作らせてみませぬか?」
「森家と妻木家にてで御座るか」
今度は話が飲み込めていないな…
「左様、久々利も久尻も良い土があることに変わりは御座らぬ。隣り合う土地なのですから。ならば、久々利の地だけでやるよりも、付近一帯で窯を作らせれば、瀬戸をも越える陶芸の地となるやもしれませぬ」
「瀬戸を越える…」
今度は訝しげかな?土地を攻め取ろうとしているとでも思っているのかな?
まあ、この辺りの国人衆からは、俺が土岐悪五郎から土地を奪い取ったと思われているようだからな。
あれは、悪五郎の自業自得だからな。
武田に付かなければ討たれる事もなかったし、現に裏切らなかった他の国人衆は領地を安堵されている。
よって、俺のせいではない。
「無論、後々に禍根を残さぬよう利益を調整せねばなりませぬが、互いにとって大きな利となる事は疑いようも御座らぬ。久々利に陶工を呼ぶ事は決まっております故、一考下され」
まあ、直ぐには決められないだろうし、前向きに考えておいてくれ。




