165 戸田で情報収集
後は関家との戦闘くらいしかないだろうが、暴れ足りない脳筋共がいるかもしれないので、佐久間久六殿に兵を預かってもらう。
加木屋久蔵には一足先に親父の元へ戻ってもらって、後のことを谷野大膳と大島鵜八に任せ、増田仁右衛門、仙石新八郎、野中権之進、斎藤五郎左衛門を連れ、まずは戸田へと急ぎ戻る。
「傳兵衛!よう戻った!待っておったぞ!」
大叔父の越後守が、人前で俺の事を殿や若ではなく傳兵衛呼びとは、余程余裕がないのだろう。
「殿、お帰りなさいませ。既に皆揃っております」
出迎えに来た斎藤内蔵助にも急かされて城内へ入る。
「で、どのような状況だ?」
越後守、内蔵助の他にも、青木次郎左衛門、本多弥八郎に武藤五郎右衛門もいた。
「只今、岐阜城へ関白殿下がお越しになられ、大殿と久蔵で持て成しております。殿にも急ぎ来るようにと」
内蔵助の言葉から、親父も怒っていそうな感じがする。
「此度の事、若の仕業ではありますまいな?」
五郎右衛門が疑わしそうに俺を見るが、本当に俺は知らんぞ。
「流石に関白殿下を呼びつける事など出来ようはずもあるまい。確かに久蔵を利用して近衞家との縁を持とうとは思うておったが、流石に殿下自らお越しになろうなどと、分かろうはずもあるまい」
逆に呆れたような視線で五郎右衛門を見下す。
俺、悪くないもん…
だが、五郎右衛門と越後守の視線は、俺にロックオンされている。
「何でも一昨年の末頃、久蔵からの文が届いたとか。ですが、久蔵には出した覚えなどないとの事でしたが?」
「ほう、一昨年ならば、まだ久蔵が大納言殿の子だと知れる前であろう?」
「文を出したのが久蔵でないならば、久蔵の出自を知る者という事になりましょうな」
二人の視線が鋭くなる。
「その様な些事は後にせよ。今は殿下の事よ。殿にも話をしたが、久蔵の事は口実で、殿との会談が目的であろう」
二人から目を逸らし、弥八郎に視線を向ける。
「でありましょうな。久蔵殿の近衞家へ寄進した事への礼と称しておられますが、実際のところ尾張守様との上洛についての話し合いが目的に御座いましょう。尾張守様の留守を狙っての事であれば、織田家の内情を探るのも目的やもしれませぬが…」
弥八郎も話題転換に乗ってくれた。
良く出来た家臣を持てて、俺はラッキーだなぁ。
だが、殿下の目的が殿であるならば、俺は会わなくとも良いかな。
「殿と関白殿下のお話次第で、どうなるか分からぬな…今、出来る事はあるまい。越後守には、そのまま此処を治めてもらうとして、他の者は岐阜へ向かおう」
まだ目的が分からないので、俺に出来る事はないな。
岐阜城へ向かって親父の指示に従おう。
「では、某は先に殿の元へ戻りまする。次郎左衛門も若を連れて直ぐに向かえ。若、くれぐれも要らぬ事は為さらぬ様」
五郎右衛門の癖に俺に指図するとは…まあ、従うが…
流石に大人しくしているよ。
五郎右衛門が親父の元へ戻ると、弥八郎を呼び、長島の情報を聞き出す。
弥八郎は真宗門徒だし、俺も熱心な門徒だと思われているので、一向衆の動向を調べる為に寺に喜捨しているから、比較的情報は手に入れやすい。
「弥八郎、長島の様子は如何であった?」
服部左京進が、しゃしゃり出てくるかとも思ったが、大人しくしていた様だし。
「はっ、服部左京進は兵を出そうとした様ですが、周りの者に止められた模様です」
なんだ、やっぱり出ようとはしてたのか。
前以て願証寺に釘を刺しておいて正解だったな。
「ふむ、であればもう出ては来ぬか。織田家も今年はもう戦はせぬであろうしな」
大丈夫だとは思うが、願証寺の機嫌を取っておいた方が良いかな。
一向衆とは、もう少しの間、仲良くしていたい。
せめて浅井家や朝倉家との決着が着くまでは。
服部左京進の事はどうでも良いけどね。




