164 突然の帰還命令
大久保城を落として、残る小岐須城を攻めようかと佐久間久六殿と相談していた時、殿からの呼び出しを受ける。
後の事を家臣に任せ、久六殿と共に殿のいる高岡城へと向かう。
高岡城へ着くと、権六殿、彦右衛門殿、長門守殿や、殿の馬廻衆の方々も集まっていた。
評定が始まると、殿が俺の方をギロッと睨み付ける。
えー!何もしてないやん!ずっと久六殿の側におったやん!
「此度、三七を神戸家へ入れる事により和睦となった」
「誠におめでとう御座いまする」
「「「おめでとう御座いまする」」」
殿の言葉に彦右衛門殿が祝辞を述べると、皆もそれに続き頭を下げる。
「権六は神戸城に残り、与力をまとめ、関家に当たれ」
「承知致しました!」
権六殿は力強く頷く。
この北伊勢攻めは、やっと回ってきた出番だからか、力が入っている。
「彦右衛門、お主は矢田城へ入り桑名郡を掌握し、員弁郡の右近を支援せよ」
「はっ、畏まりました」
滝川彦右衛門殿は矢田城へ入って、桑名郡の統治と、員弁郡を攻めている坂井右近将監殿のバックアップに当たるか…
当然、長島の願証寺の見張りも入っているよな。
「長門守は萱生城へ入れ!」
「はっ」
これはやっぱり、岩室長門守殿に朝明郡を任せるのかなぁ?
出来れば将来、近江の宇佐山城を守って欲しいのだが…
いや、まだここを与えられるとは決まってない!
取り敢えず任されているだけだ!
可能性は残されている!
「新八郎は高岡城に入り、三七が神戸家に入るまでの準備を整えよ。追って代わりの者を寄越す」
「はっ、お任せ下され」
神戸家との折衝は馬廻の浅井新八郎殿が任されるのね。
こちらは、完全に一時的なものみたいだが。
「儂は先に戻る」
「はっ、後事はお任せ下され」
一通り話が終わるが、殿からの俺へのプレッシャーが消えない…
「さて、傳兵衛。お主は儂と共に急ぎ岐阜へ戻れ」
「はっ、承知致しました」
急ぎっていうのが不吉だなぁ。
「岐阜城に関白殿下が、お越しになられておるとの知らせがあった」
はぁ?なんで?
「ふん、その呆けた顔を見ると、お主の企みではないか」
「当然に御座いまする!某に関白殿下を呼びつける事など出来よう筈も御座いませぬ!」
これは俺のせいではないぞ!
本当に関白殿下に働きかけなんかしていないからな!
うん…久蔵の名前で手紙を書いたのだから、出したのは俺ではなく、あくまで久蔵だからな…
「まあ、良い。久蔵の事での下向との事だが、口実に過ぎぬであろうな。恐らくは左馬頭様の事であろう」
まあ、そうだろうな。
いくら甥だとしても、庶兄の子でしかない久蔵の事なんかで、態々岐阜城まで来る訳がない。
でも足利義秋は、今は若狭にいると思うんだけど、岐阜城に来て何か分かるのかな?
それとも、この後に若狭へ向かうのだろうか?
「では傳兵衛、もう言い忘れた事はないな?」
何かあったかな?別段思い浮かばないかな…
「はっ!特に御座いません」
「では急ぎ支度を済ませよ」
う~ん、何か情報なかったかなぁ?
小ネタでも話しておいた方がいいのかな?
「あっ!関白殿下は歌道だけでなく、馬術や鷹狩りもお好きだとか…」
折角、関白殿下の趣味を思い出したから答えたのに、メッチャ怒られた。
隠していた訳でもないのに理不尽だ…




