163 大久保伊豆守
小岐須、大久保、山本の三城攻めを久六殿に相談するついでに、神戸家の状況を聞くと、既に高岡城は落城して、釆女城も降伏寸前。
神戸家にも降伏の条件を突き付けていて、もう数日で降伏間違いなしの状況らしい。
だが、残る関氏宗家や鹿伏兎家、国府家、そして峯家は依然戦う姿勢を崩していない。
ならばと、権六殿の援護の為に予定通り三城の攻略に乗り出す事になった。
まあ、峯家が此方に兵を向けるだけでも、権六殿は楽になるだろうし、やる意味はあるだろう。
浜田近江守が山本刑部少輔を調略出来なければ、挑発だけで終わろう。
「傳兵衛殿、山本刑部は傳兵衛殿にお味方すると…」
仕方ない、攻めるか。
内部川を挟んで小岐須、大久保、山本の兵と対峙する。
あとはいつものパターン。
此方の渡河と同時に内通者が裏切って敵を攻撃し、混乱している内に渡りきってしまうという作戦。
もし、山本刑部が裏切らなければ、被害が大きくなるが、関氏全体が押されているこの状況で、そんな事をすれば後でどうなるかを考えれば大丈夫だとは思う。
浜田近江守も自信がある様だし、イケるだろう。
果たして渡河を敢行すると、無事に山本刑部が小岐須常陸守に襲いかかる。
こうなればもう勝ったも同然。
敵が混乱している間に川を渡り終え、我先にと敵軍へと襲いかかる。
俺が川を渡り終えた時にはもう、小岐須軍は潰走状態となっていた。
「小岐須常陸守を逃がすな!」
「追撃せよ!」
など、皆が小岐須軍への追撃に意識を取られる中、此方へ突っ込んでくる一団が見えた。
「関家家老、大久保城城主大久保伊豆守なり!常陸守様を討たせはせぬ!大将の首を貰い受ける!」
どうやら、大久保伊豆守が小岐須常陸守を逃がす為、此方へ突撃してきた様だ。
ぶっちゃけ小岐須常陸守の事なんかどうでもいいのだが…
それに俺、大将じゃないし!久六殿だし!間違えてるぞ!
しかし、こういう人は嫌いじゃない。
此方の家臣となって、ピンチの時にそれをやってくれると助かるのだが…
「この兵を預かる織田家家臣、森傳兵衛。お相手致す!」
流石にこの状況で相手をしてあげないと、兵の士気というか、俺への好感度が下がるような気がするので仕方ない。
大将の久六殿に一騎討ちをさせる訳にもいかないしね。
負け戦の上、敵陣を突破してきて疲労困憊の相手なら、なんとかなるだろう。
そんな強力な武将でもないだろうし…少なくとも俺は知らないし。
楠木兵部大輔殿に貰ったばかりの槍を構え、儀礼的に三合程打ち合うが、やっぱり疲れているのか大分足に来ているようだ。
大丈夫そうだな。
伊豆守を力で押し返し、岩場に追い詰めると、少し距離を取って語りかける。
「既に充分な刻を稼がれたと思うが、降られては如何か?貴殿ほどの忠臣…」
「これ以上の言葉は無用に御座る」
最後通告をしてみるが、途中でカットされてしまった。
まあ、仕方ない。
打ち込んできた相手の槍を躱し、伊豆守に向け槍を突き出す。
おっ!なんか今まで最高の突きを放てた気がする!
「ガッ!!」
俺の槍は、甲冑ごと伊豆守の体を貫き、後ろにあった岩に突き刺さった。
………怖っ!
いやいや、流石にそれはないだろう…
甲冑に傷とかあったのかもしれないな。
岩も…割れ目に偶然刺さったのかもな。
「伊豆守殿の忠心、畏れ入った。御家族の事は御心配には及ばぬ」
聞こえているかどうか分からないが、株が上がりそうな事を言っておく。
後で家族に命を狙われたりしないように、伊豆守の忠臣振りを大袈裟に褒め称えて、家族に見舞金を出そう。
「遺体は家族へ御返しする。丁重に扱うよう。槍も忘れずにな」
森小三次に遺体と槍(体にぶっ刺さっているので)の事を命じると、大久保城へと向かう。
既に小岐須常陸守は小岐須城へと逃げ去ったので、この場の後始末は山本刑部と赤堀近江守に任せる。
大久保城の城主が討たれ、隣の山本家は裏切り、小岐須の軍は敗れて敗走した。
最早成す術無しと、城を明け渡した。




