159 助かったよ松田くん
「安藤伊賀守が臣、松田平助に御座います。主より書状を預かっておりまする」
と言って松田平助は、二通の書状を差し出した。
恐らく片方はイガイガからの物で、もう一通は山路弾正からの書状だろう。
これで人質にならずに済むかも!
殿は、ざっと書状に目を通すと、俺の方をギロッと見る。
「傳兵衛、これもお主の仕業か?」
まだ開けられていない書状を振りながら、俺を睨み付ける。
突き刺さる視線に内心ビビりながらも、ここはイガイガの株を上げておこうと考える。
「確かに山路弾正からの書状の話は致しましたが、中身を見ぬままの書状を届けに来られたのは、伊賀守殿の判断に御座いましょう」
さらに殿の目力が増すが、実際に俺の仕業ではないので後ろめたい事などない!
勿論、関ヶ原の戦いで山内一豊が、三成側からの書状の封を切らぬまま家康に渡したエピソードは知っているが、イガイガの為などに使わず、今後もっと良い場面があったら使おうと温存していたのに…弥八郎、やってくれたな…
イガイガが裏切ってない証拠があればいいんだから、中身を見た手紙でも問題ないよな?
美濃の有力者であるイガイガの心証を良くしようとしたのだろうが、史実でイガイガは追放されてるからなぁ…恩を売っても微妙じゃね?
もっと将来権力を持ちそうな奴に使いたかったんだがなぁ。
せめて西美濃三人衆の中なら氏家常陸介殿とか、関係の薄い人の方が良かったな。
まあ、仕方ない。
弥八郎は、将来はイガイガが追放されるなんて知っているはずもないし。
「よかろう。平助、大儀!伊賀守の忠勤に感謝すると伝えよ」
「はっ!」
結局イガイガの功績になったようだが、さすがに俺、疑われてるよなぁ…
「傳兵衛、他にまだ隠し事などあるまいな?」
取り敢えず今回の伊勢での調略のネタは尽きたはずだが…
「はっ、残るは神戸家の西にあります平田家の調略くらいでしょうか…」
「平田?」
「はっ、平田家は甲斐武田家と盟約を結んでおります。どのような物かは存じませぬが、そこから調略が出来ぬものか試みております」
よくは知らないが平田家と武田家は盟約を結んでいるらしい。
織田家は武田家と同盟を結んでいるので、そこを突いて調略を試みている。
「まあ良かろう。傳兵衛、お主は何もせず楠城にて控えておれ」
おっ?人質回避成功したのか?
やったぜ、平助殿ありがとう!!
「はっ!」
勿論、嫌とは言わないけれど…
評定が終わると、今回の功労者である松田平助殿と平助を案内してきた山内次郎右衛門に話しかける。
「平助殿、よくお越しいただいた。助かりましたぞ。平助殿は某の命の恩人に御座る。次郎右衛門も良くやってくれた」
次郎右衛門は俺の言葉に感激した様子だが、平助殿は冷静だな。
「感謝には及びませぬ。某は主命により参上したまで。逆に当家の株を上げる機会をいただき感謝致します」
「お役に立てたなら幸いに御座る」
う~ん、真面目だなぁ。
今回、ダメ元で与力に欲しいと願ったんだが、予想通りダメだったんだよなぁ。
期待はしてなかったんだけど…
「平助殿、何か力になれる事があれば、何時でもお訪ね下され。出来得る限りの事はさせていただく」
一応、平助殿に遠回しな勧誘をしておいてから別れる。
「傳兵衛殿!皆の前での大見得を切られたそうで、お見事に御座る。某もその様子を拝見致したかった。残念至極に御座る」
暫くすると早速前田慶次郎殿がやって来て、冗談半分に褒め称す。
「いや、打ち首寸前に御座った。松田平助殿が来られねば危うかったやもしれぬ」
俺は慶次郎殿と違って、そんな博打は打ちたくないんだよ。
「いやいや、傳兵衛殿が敵方と内通する筈もなし、打ち首などにはならぬよ。まあ、後は楠城でのんびりと過ごされよ」
いや、今回は大丈夫だったが、楠木七郎左衛門殿を逃がしたのを突っ込まれるとちょっと厳しかった様な…
後、楠城での待機命令を隠居みたいに言うな。
滝川彦右衛門殿、岩室長門守と共に釆女城を攻める慶次郎殿と別れ、楠城へ戻る前に、一緒に高岡城を攻めていた知り合いの馬廻衆や、池田恒興、中川重政、福富秀勝といった、まだ知り合っていなかった有名どころの武将と交流していく。
後の事は他の人に任せて、俺は楠城で待機だ…赤堀近江守と楠木兵部大輔と一緒に茶でも飲んでいるか。




