155 楠木正忠救済計画
「では、我等は高岡城に一当てして参る」
「傳兵衛は楠城で、ゆるりとしておれ」
権六殿と久六殿は、釆女城にいる敵の援軍を戻す為に神戸氏の城の一つである高岡城を攻めに出て行った。
高岡城の城主が釆女城へ援軍に出ているからね。
俺は楠城で留守番なので、岩室長門守殿がする予定だった周辺の小城の制圧を代わりにやっておくか…
「兵部大輔、お主が周辺の国人衆を説得し、織田家に降らせよ。殿が来るまでに手柄を少しでも立てねばなるまい」
楠木正忠に中河原城の藤原吉次等周辺の国人衆に降伏を促す使者を送るよう命じる。
正忠に少しでも手柄を立てさせて、改易や切腹になるのを防いでやらないとな。
「有り難う御座いまする。必ずや成果を上げましょう」
正忠は御家の為にと張り切って、各所に降伏を呼びかける文を出す。
その間、俺は楠城と釆女城の間にある川尻城を落としに掛かる。
川尻城の城主である有山主馬助とかいう奴が、七郎左衛門殿と共に赤堀城を攻めた奴らしい。
浜田城と赤堀城を攻めて失敗したせいで、かなりの兵が討たれているので、一気に攻め滅ぼしてしまおう。
ここでも正忠を案内役として連れていき、城の正面から力押しでガンガン攻め立てる。
「敵を城から追い落とせ!策など要らぬ、力で捩じ伏せよ!」
俺の軍行動では珍しい只の力押しに、ウチの脳筋共も張り切って突撃していく。
別に城主の有馬主馬助には興味もないので、降伏でも逃亡でも切腹でも好きにすれば良い。
暫く攻め立てていると、仙石新八郎がやって来て、
「殿、城主有馬主馬助より開城の申し出が御座いました」
と、知らせてくる。
まあ、こんなものかなと、新八郎の言葉に頷く。
「半刻の内に、城を明け渡し城を去るのならば、後を追わぬ事を約束しよう」
そう、主馬助に約束するが、果たして半刻もせぬ内にさっさと城を明け渡して落ち延びていった。
既に逃亡の準備は終わっていたのだろうか?
この逃げ足の速さを先の赤堀城戦でも見せていれば、評価は変わったのだがなぁ。
まあ、いいや。
無事に城を落とせたからな。
これから来る援軍を入れる城が、一つ増えた事を喜ぼう。
川尻城を谷野大膳に任せて、楠城へ戻る。
楠城に戻り暫くすると、正忠が調略の報告にやってくる。
「傳兵衛殿、各地の国人衆も織田家に降ると約しております。山田城の矢田監物殿、中河原城の藤原吉次殿…」
正忠が降伏した奴等を羅列してくるが、誰一人として知らないぞ。
「そ、そうか。よくやってくれた。殿も喜ばれよう」
う~ん、こんな俺も知らないマイナーばかり調略して、殿の点数を稼げるかなぁ?
無いよりマシなのは間違いないけど。
息子が北畠家へ出奔していて、孫娘は神戸家の家臣に嫁いでいるので、親族皆敵方なのはマイナスだよなぁ。
「近江守殿は家伝の太刀を差し出されたとか。当家に家伝の太刀など御座らぬが、代々鍛治を嗜む家系に御座います。当家にある太刀を数本、尾張守様に納めるというのは如何に御座ろう?」
そうだ!伊勢楠木氏といえば、村正を祖する千子派の一派。
刀好きの殿なら許してくれるかも…
「傳兵衛殿には、この槍をお受け取りいただきたい。某の兄が打った槍に御座る」
正忠…兵部大輔殿は俺にも一本の大身槍を渡してくる…賄賂かな?




