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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
154/554

149 暇は後免蒙る

前田利益視点です。

 伊勢国三重郡小古曾村小古曾城 前田慶次郎利益


 釆女城の攻略中、突如関氏よりの援軍が現れ、素早く近くの小古曾城へと退いたのは、流石は伯父上と言ったところか。

 この軍を率いている滝川彦右衛門殿は、実父の従兄弟で従伯父に当たるのだが、面倒なので伯父上と呼んでいる。


 しかし、このまま織田家の援軍が来るまで睨み合いとなれば、陣借している俺の出番はない。

 実に退屈至極。


 酒でも飲んで暇を潰そうかと思っていると、元家臣である奥村助右衛門が暗い顔をしてやってくる。


「どうした助右衛門、岳父殿に会えなんだか?」


 助右衛門は俺の岳父である五郎兵衛に挨拶しに、援軍としてやって来た森家へ向かったのだが、どうやら会えなかったようだな。


「ああ、五郎兵衛様は赤堀城に居られるらしい。森傳兵衛殿も彦右衛門様の所へ向かわれて挨拶出来なんだわ」


 助右衛門は砕けた口調で答える。

 元々は真面目で堅苦しい奴だったが、お互い牢人の身となった折、堅苦しいのは御免だと俺に対する言葉遣いを改めさせた。


「それは無駄骨であったな」


「いや、どうやら赤堀城へ敵襲があった様だ。この後、恐らく傳兵衛殿が援軍に向かわれるらしい。赤堀城は堅固な城とは言えぬらしいが、五郎兵衛様は御無事であろうか…」


 その言葉を聞くと、直ぐ様立ち上がり伯父上の元へ向かう。


「おい、何処へ行く慶次郎!」


 助右衛門が慌てて俺の後を追ってくるが、それには取り合わず伯父上の元へ急ぐ。



 伯父上の元へ辿り着くと、話し合いを終えたらしい若武者が席を外そうと立ち上がったのが見えた。

 あれが森傳兵衛殿に違いあるまい。


「待たれよ!傳兵衛殿、某もお連れ下され!」


 傳兵衛殿に声を掛け、その場に引き留める。


「慶次郎!控えておれ!」


 伯父上が咎めるが、無視して傳兵衛殿に話し掛ける。


「聞けば、岳父五郎兵衛のいる赤堀城へ敵が迫っておるとか。どうか某をお連れいただきたい」


 俺の言葉に傳兵衛殿は面白そうな顔をして近付いてくる。

 しかし、傳兵衛殿は大男だな。

 俺の頭半分程は高い。


「して、本当のところは?」


「このまま睨み合いとなり暇を持て余すより、赤堀へ向かい敵を蹴散らす方が面白かろうと思いましてな」


 からかう様に尋ねてくる傳兵衛殿に、俺も笑みを浮かべ返す。


「伊勢攻めの前に前田家にて、慶次郎殿を誘う積もりであったのだ。彦右衛門殿さえ構わぬならば、歓迎致そう」


 傳兵衛殿の許可を得て、伯父上の方を見ると、「勝手に致せ」と溜め息を吐いている。


「おお、忝ない!流石は伯父上、話が分かる。傳兵衛殿、暫しお待ちを。直ぐに支度して参ります故」


「此方の支度は既に終えておる故、急ぎ後から追いかけられよ」


 傳兵衛殿は笑いながら出て行かれる。


「助右衛門!直ぐに支度を。傳兵衛殿をお待たせするな!」


 呆然と立ち尽くしている助右衛門を急かして、戦支度をしに戻る。



 小古曾城から赤堀城までは近い。

 駆け足で半刻もかからず到着する。


「どうやら間に合ったようだな。上手い事立ち回り敵を引き付けたままにしてくれた様だ。しかし…」


 傳兵衛殿の言う通り、敵は退き時を逃している。


「ふむ、楠木正具という御仁、噂程ではないのでは?」


 傳兵衛殿の家臣は、そう言うが…


「いや、味方に足を引っ張っておる者がおる。今、慌てて兵を退こうとしておるのは、どうやら楠木家ではないようだ」


 俺はそう言い、その兵の旗印を指差す。


「確かに慶次郎殿の言う通り、味方に足を引っ張られた様だな。見捨てる訳にはいかなかったか」


 見ると、敵兵は撤収を急いでいる者共と、此方へ兵を向けておる者共の二組おる。

 どうやら少しでも、味方の撤退を助けたい様だな。


 さて、どちらの兵を狙うかといえば決まっている。

 傳兵衛殿の方を見れば、頷き返される。


「皆の者、狙うは楠木正具唯一人!味方の足を引っ張る事しか出来ぬ輩は放っておいて良い。楠木正具を逃がすな!」


 傳兵衛殿の号令に皆が一斉に駆け出すが、俺はそれより先に動き出す。

 折角此処まで来たのに、楠木正具と槍を合わさずして何とする。


 一気に駆け抜け、敵将の前へと躍り出る。


「そこに居られるのは楠木七郎左衛門殿と、お見受けする。某一介の牢人前田慶次郎!七郎左衛門殿の首、貰い受ける!」


「牢人風情が片腹痛いわ!」


 名乗りを上げると、周りにいた兵の一人が躍りかかってくる。

 それを槍を振るい叩き伏せると、恐らく七郎左衛門であろう、既に壮齢は過ぎていよう武者に笑い掛ける。


「慶次郎殿、楠木七郎左衛門殿は如何した?」


 そこへ傳兵衛殿が兵を引き連れやって来て尋ねられる。


「おお!傳兵衛殿!これより七郎左衛門殿に一手御教授いただこうかと!」


 俺は七郎左衛門から視線を外さず、傳兵衛殿の問いに答える。


「ふむ。では、我等が周りの者を引き受けよう」


 流石は傳兵衛殿!よく分かっておられる。


「忝ない!」


 俺は槍の石突をドンと地面に突き刺し、再び名乗りを上げる。


「鎮守府将軍藤原利仁が裔、尾張前田家前当主蔵人利久が嫡子慶次郎利益!楠木正成が嫡流、楠木七郎左衛門殿の首、貰い受ける!」


 家祖の名を出されては、嫡流である七郎左衛門も断りづらかろう。


「楠木家当主七郎左衛門正具。慶次郎とやら、お相手致す」


 無造作に振り下ろした初撃は、相手の槍に難なく防がれる。

 続いて二撃三撃と繰り出すと、こちらの方が力がある様で押している。

 このまま力で押しきろうと次撃を振るうが、相手に槍先を流されてしまう。

 僅かに体が泳いだところに、相手は突きを繰り出してくるが、更に体を捻り躱すと、強引に槍を振るい、相手を退かせて距離をとる。


 仕切り直しとなり、ニヤリと笑みを浮かべ七郎左衛門を見ると、向こうも笑っているのが見える。

 いや、楽しい。

 二十近く歳が離れているとは思えぬ槍捌き。

 やはり戦はこうでなくては。

 七郎左衛門も最早逃げるには遅きに失しているのは分かっているだろう。

 この戦を存分に楽しんで貰いたいものだ。



 槍を構え直し、再び相手の頭上に振り下ろすが、今度は受けずに逸らされる。

 しかし、それを予想していた俺は強引に槍を戻し、突きにきた相手の槍を弾く。

 がら空きの胴に突きを入れると、七郎左衛門は槍を手放し地に転がり逃げようとする。

 転がった七郎左衛門の腹に石突を叩き込むと、七郎左衛門も動かなくなる。


「「「おおっっ!!!!」」」


 周りからの怒号の様な声に見渡すと、皆が動きを止め、俺等の勝負を見守っていた。


 しかし、中々に楽しめる戦いであった。

 家中の騒動の事など忘れ、存分に槍を振るう事が出来た。

 家に居れば叔父上の事で義母がうるさくて敵わんからな。

 それにしても、七郎左衛門をこのまま殺すには惜しいな。

 気晴らしに付き合わせた礼もあるし、何とか命を助ける手立ては無かろうか。

前田慶次郎の身長は普通に160㎝位らしいですね。あと胴回りが太い?

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― 新着の感想 ―
[一言] 前田慶次郎が出てきました。 生誕年の諸説の中で、どれを基準とされているのでしょう?20年ぐらい離れてるのもあるけど、でも、なんか年とか関係なく馬があいそうな感じだ~
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