148 小古曾城へ
引き続き赤堀城の守りを名取将監と前田五郎兵衛殿に任せ、岩室長門守殿と共に、滝川彦右衛門殿の援軍の為に小古曾城へ向かう。
小古曾城までは、それ程離れていないので直ぐに状況は知れる。
既に互いの軍勢はそれぞれの城へと退いている様だ。
相手も彦右衛門殿も奇襲を許す程馬鹿ではないし、さっさと兵を退いて睨み合いになっている。
どうやら彦右衛門殿は釆女城を攻める前に、今居る小古曾城と古里城を攻め落としていたようで、現在相手は釆女城、彦右衛門殿は小古曾城と古里城の2つの城に入り様子見のようだ。
小古曾城の規模は知らないが、彦右衛門殿の兵を、俺が知らない様なマイナーな城に収容出来るのか心配だったのだが、城は2つ確保していたのね。
しかし、彦右衛門殿は俺達に援軍を要請してきたけど、釆女城に関氏や神戸氏の援軍が入ったら、今回の遠征軍だけでは落とすことは難しいんじゃないかな?
員弁郡に対しての防備もしなければならないし、降伏した伊勢衆の寝返りにも注意しなければならない。
落とした城の守備も必要だし、まだこちらの兵の方が多いとはいえ、城攻め出来る程じゃない。
美濃や尾張から援軍を呼ばないと、とてもじゃないが城攻めなんて無理だろ。
釆女城は落とせたとしても、被害甚大で城を捨てて撤退するしかない。
まあ、既に彦右衛門殿も、殿に援軍要請しているだろうが。
「さて、長門守殿、傳兵衛殿、何か案があるか?」
「このまま殿の援軍を待つべきに御座ろう。本当は今少し離れた大きな城へ退きたくはあるが、遠くに過ぎる」
彦右衛門殿の質問に長門守殿が返すが、俺も同意だな。
この城は、釆女城に近過ぎるし、規模も小さい。
だが、大きな城まで退くと、この辺りの小城を捨てるなり燃やすなりしなければならず、降伏した伊勢衆の造反を招きかねない。
「向こうも、我等を攻める程の兵は持ち合わせてはおりませぬ。防戦を主として、六角家の援軍を待つなり、降伏した国人衆や長島の願証寺などを唆して、我等が仕切り直すのを待つなり、少数の兵で奇襲を繰り返すなりするのでしょう」
俺の言葉に二人とも頷く。
「やはり殿の援軍が来るまで、このまま敵兵を引き付け、睨み合いを続けるしかあるまい。問題は傳兵衛殿の言う少数による奇襲だが…」
彦右衛門殿も現状維持するしかないと結論付ける。
「狙うなら兵糧か後方の手薄な城か…」
長門守殿が俺の方をチラリと見る。
「西の千種家は臣従を申し出ております故、そちらは任せれば良いかと。東にある落としたばかりの浜田城と赤堀城は、兵も少なく狙い目だとは思いまするが…果たして食いついてくるかまでは…」
浜田城と赤堀城には、それ程兵は残っていない。
ただ、赤堀城には防戦に定評のある(?)前田五郎兵衛殿に任せてあるし、城の補強も出来る限り命じてある。
浜田城の方は最低限しかしていないが、浜田近江守が討ち死にしたりしても、嫡男の与右衛門と家宝の兜と太刀は、赤堀城で預かっているので問題はない。
赤堀城が落ちると少々困るが…
「殿!浜田城の浜田近江守殿より火急の知らせに御座います!」
天野加助が慌てて飛び込んでくる。
どうやら本当に食い付いたみたいだな。
ゲリラ戦などされたら面倒極まりない所だが、来る場所さえ分かっていれば、遣り様はある。
彦右衛門殿と長門守殿を見ると、構わないと頷きがあったので、そのまま話させる。
「敵襲の知らせに御座います。楠木家の兵凡そ500。浜田城は既に陥落。城主の浜田近江守は赤堀城へと逃れております。近江守殿の話では、兵を率いているのは、楠木七郎左衛門正具との事」
楠木正具?一志郡の八田城に居るんじゃなかったのか…楠城に居たとはな。
史実では、父親の正忠とは別の所で戦っているから、親戚かどうかも怪しく、家督を継いだという話も疑っていたのだが、どうやら本当に親子だったみたいだな。
「敵が雲隠れする前に、殲滅したく思いますが」
「傳兵衛殿にお任せ致す」
彦右衛門殿に確認してOKを貰うと、直ぐに出陣しようと立ち上がる。
「待たれよ!傳兵衛殿、某もお連れ下され!」
突然、男がドカドカとやって来て、一緒に連れて行けと言い出した。




