147 千種家と梅戸家
「傳兵衛様!斎藤五郎左衛門殿、井上半右衛門殿が戻られました」
別命を与えていた斎藤五郎左衛門頼元と井上半右衛門頼次が帰って来たと告げられる。
二人を直ぐに通し、話を聞く。
「五郎左衛門、半右衛門如何であった?」
まずは、千種家へ向かった半右衛門に話を聞く。
千種家の現当主である千種三郎左衛門忠基は、元は六角家家臣後藤但馬守賢豊の弟で、子供の無かった千種常陸助忠治の養子となった。
その忠基の兄である後藤賢豊は、現当主である六角義治によって殺害されている。
当主を譲られた義治が自分の権力を増す為に、後藤賢豊とその嫡男を殺害したといわれる『観音寺騒動』で殺されたのだ。
その結果、義治は諸将の不信を買ってしまい、父の承偵と共に城を追われてしまうが、蒲生氏や三雲氏の執り成しで、観音寺城へ戻る事が出来ている。
後に権力を制限される『六角氏式目』に同意させられてしまうのだが、今の時期、義治は観音寺城へ戻ってはいるが、まだ六角氏式目も出されていないので、六角家と後藤家は反目したままだし、そこを突いて何とか出来ないかなと調略したのだが。
「はっ、千種三郎左衛門殿は六角右衛門督に不信を抱き、織田家へ臣従すると確約致しました」
おお!やったね!六角義治への不信を利用して寝返らせる計略だったのが、上手くいったようだ。
まあ、忠基は兄を殺されて、怒っているか、喜んでいるか、分からないが…
後藤本家の乗っ取りを吹き込んで寝返らせる事も考えたが、必要はなかったな。
他にも前当主の千種忠治を担ぎだす事も視野に入れていたのだが、面倒な事をせずに済んでよかった。
千種忠基が養子に入った後に、忠治に実子の又三郎顕重が生まれ、家督を実子に譲ろうと画策した為に、忠治親子は追放されている。
その後、忠治は千種城の奪還を試み攻めたが失敗している。
六角家にいるらしいので、引っ張り出そうかと考えていたのだが、必要ないな。
「して、梅戸左衛門大夫の方は如何であった?」
もう一人、梅戸左衛門大夫実秀殿にダメ元で調略を掛けていた五郎左衛門の結果を聞く。
「申し訳御座いませぬ。左衛門大夫は、主家を裏切る事などありえぬと」
ふ~ん、梅戸実秀は敵対を選んだのか…
五郎左衛門の報告に、少しがっかりする。
五郎左衛門の母親は六角承禎の妹で、梅戸左衛門大夫実秀の従弟に当たるので、説得できないかと思ったのだが…
六角対策で、当主をすげ替えるのに使えないかなぁとも思ったのだが…仕方ない、梅戸家には滅んでもらおう。
「そうか、致し方あるまい。梅戸家の事は諦めるとしよう」
梅戸氏の押さえている八風街道は、近江の蒲生郡や神崎郡へ抜ける街道となっている為、ここは押さえておきたかったのだがな。
この街道は、殿が朝倉攻めで敗北した後、京から岐阜へと帰る為に通り、杉谷善住坊に狙撃されたという街道だし。
うん?狙撃される…?
もし、殿が狙撃され亡くなっていれば、志賀の陣はどうなったのかな?
いやいや、織田家が混乱して余計悪くなるかもしれないし!
何よりバレたらヤバすぎだし!却下…保留…
そんなこんなで色々やっていると、長門守殿が羽津城を落としたのと知らせを受け、羽津城へ向かう。
羽津城へ入ると、早速長門守殿と話をする。
「傳兵衛殿、一日に二城落とすとは流石ですな」
「有り難う御座います、長門守殿。それで、これから如何しますか?」
「間も無く彦右衛門殿も城を落とされよう。それまで某は周りの小城を落としておこう。傳兵衛殿は、落とした三城の後始末を御願いしたい」
これ以上の手柄は立てるなって事かな?
「承知致した」
よし、彦右衛門殿から知らせが来るまで、のんびりしていよう。
「長門守殿!傳兵衛殿!一大事に御座います!」
用事も終わったので帰ろうと立ち上がった時に、長門守殿の御附家老である高木彦左衛門貞久が、飛び込んでくる。
「如何した彦左衛門!」
「釆女城攻略中の滝川彦右衛門様より、後藤家に関家、神戸家より援軍が現れたとの知らせに御座います。至急助力を請うと」
「彦右衛門殿は如何された!」
「援軍に気付き、すぐ東の小古曾城まで退かれました」
高木彦左衛門の言葉に長門守殿が此方を見る。
「いよいよ六角義治が裏切ったという事に御座いましょう。直ぐに岐阜へ知らせを」
そう返すと、滝川彦右衛門殿の援軍の準備の為に、赤堀城へと戻る。




