15 虎児を得る為に
平野長治は、引っ越し準備のため帰っていった。
そのまま蓮台へ向かってくれるようだ。
俺たちは、津島から西にある次の目的地、下之一色村城を目指すわけだが、スカウト目的のため、少し寄り道をして進路を北西にとる。
そして、着きました長束村!
長束といえば、五奉行の長束正家。
近江出身説が主流の正家だが、尾張説もあるため、一応確めておきたい。
まだ本人は生まれていないわけだが、父親がいないかな?
結論、いませんでしたー。父親の水口盛里さんは見つからず。
やっぱり近江出身なのかな?
仕方ない、正家はまだ生まれてもいないし親の代から囲いたかったのだが、気を取り直して次にいこう。
第二弾、長束村のすぐ近く、増田村!
同じく五奉行の増田長盛。
こちらも、近江と尾張両方に出身説がある。
大本命なので、どうか尾張出身でありますように。
寄り道番外編、中村。
増田村の牢人、増田仁右衛門長盛を一行に加えて、秀吉の故郷の中村へと。
別に秀吉に用事があるわけではない。ただここに住む鍛冶屋に興味があるだけだ。
一軒の鍛冶屋に入り、奥にいる主人に話しかける。
「主人、刀を一振り打って貰いたいのだが」
元は武士であろう、しっかりとした体格の男が出て来る。
「そりゃ有難いですが、某でよろしいので?」
まあ、不思議だよね。他の村の者が突然やって来て刀を打てとか。地元か、評判の店に頼めばいいのに。
「ここで打って貰うと良いことが有りそうな気がしてね。勘みたいなものだよ」
納得いってないような顔してるな。まあ、適当な事を言ってるわけだが。
「ところで、主人はどこかの武家の出だろうか?」
少し表情を暗くして答えてくれる。
「はい。某、加藤正左衛門と申します。
元は美濃斎藤家に仕えておりましたが、織田家との戦で父は討ち死にし、所領も失いました。
某も足を痛め、鍛治屋を始めることに」
「ご家族は?」
「十六になる弟がおります」
ほう、これはいけるか?
「もし、どこにも仕えておられぬなら、当家へ、森三左衛門が家は、如何か?」
「はっ?」
まあ、突然言われても、訳が分からんだろうな。
「今、当家は幾人か人を増やそうと思うておる。もし、不都合がなければ、是非当家にお越しいただきたいと。同じ美濃の出なれば、他家よりは仕官しやすかろうかと思うが、如何か?」
「よろしいので?」
「勿論。正左衛門殿は、如何か?」
「いえ、某は、とうに刀を捨てております。もし、男子が生まれれば、宜しくお願い致します」
よし、加藤清正を予約した!
未来への布石だから今回の目的とは違うけど。
秀吉の遠縁に当たるかもしれないが、仕官は志賀の陣が終わった後になるだろうし、まあいいよね。
本当に来るとは限らないし。
「では、刀は、翌年の五月頃に取りに参ります」
弟さんにはすぐに手紙を出すらしい。
念のため津島で買った五郎助の槍、いらなかったかな?
まあいいか、父親の死後に叔父の五郎助を頼るかもしれないし。
中村の鍛冶屋、正左衛門と別れを告げて、今度こそ下之一色村城へと向かう。




