144 赤堀城攻略
宵の内に、こっそり塀を越えて潜入した家臣達によって鬨の声が上がり、城内は大混乱となった。
それを見て、ウチの本隊を突入させる。
もう、ほぼ勝ったも同然なので、俺も突入して点数稼ぎしておかないとな。
流れ矢などに注意して身の安全を第一を忘れずに…林助蔵あたりに護衛してもらえば大丈夫だろう。
一緒に来た大矢知遠江守の兵は、浜田城からの援軍が来た場合に備えて待機だ。
出来るならば赤堀城城主の赤堀景治は確保したい。
景治の父、具氏は神戸家四代目当主である神戸具盛の次男で、赤堀家に養子に入っている。
なので赤堀景治と神戸家の現当主である七代目当主、神戸具盛(四代目と同じ名前)の従兄弟となる(六代目は兄なので)。
まあ、扱いに困るので、討ち取ってもらっても一向に構わないのだが。
神戸家の乗っ取りとか出来そうもないし、後で出しゃばられても、ややこしくなるだけだし。
突入して少しすると、三郎四郎が八十歳程の老人を引っ立てているのに出くわす。
三郎四郎も此方に気付きやって来る。
「殿、赤堀の家の者を捕らえたのですが如何しようかと…」
流石に槍も使えそうにない老人を斬るのは迷ったのだろう、こちらに丸投げしてきた。
「御老体を斬ったとて武功とはなるまい。放してさし上げよ」
俺も初陣で老人の石橋式部大輔を討ち取ったが、それは向こうが兵を指揮して攻めて来たからであって、今回は此方が攻める側で、この老人も兵を指揮している訳ではない。
斬り捨てるのは流石にな…
赤堀の一族みたいだから、戦が終わるまで此処に居てもらおうか。
「某は牧月斎と申す。すでに隠居した身に御座いますが、赤堀が滅びるのを見るのは忍びない。御厚情は有難いが、どうか腹を切る事をお許し願いたい」
折角助けてやるって言ってるんだから、生きればいいのに。
「生きておれば、御家再興の機会もあろうものだが?」
牧月斎は、ゆるゆると首を振る。
「赤堀家は神戸家より養子を入れ、赤堀の惣領は浜田家に移り申した。もし叶いますならば、どうか赤堀家の事、宜しく御頼み申し上げまする」
と、一本の太刀を差し出してくる。
「家重伝の太刀に御座る。どうか後の事、御頼み申し上げる」
「約束は出来ぬが、出来るだけの事は致そう」
「忝ない」
太刀を受け取り、牧月斎に別れを告げる。
活躍して点数を稼ぐという気分でもなくなったので、家臣に任せて落城を待つ。
しかし、頼むと言われてもなぁ…太刀を受け取っちゃったし、家臣にも見られてるので無視したら評判が落ちないかなぁ…
もし、ここの城主を捕らえられないと、次の浜田城で赤堀家の者を殺さないようにしないといけないのか…
長門守殿が羽津城で一族の者を捕らえてくれれば方が良いのだが…
そうだ、彦右衛門殿が攻めている城の一つである中野城の中野某ってのも赤堀氏の分家らしいな。
彦右衛門殿に頼み込んで、そいつに赤堀を継がせてやるのも良いんじゃないかな。
結構一族っているな。
そう考えたら、別に気にする必要もないか…
生死を気にせずに赤堀、浜田城を攻め落としても大丈夫!
城の裏手より「おお!」っと声があがる。
裏手という事は誰か名のある者が逃げようとした所を討たれたのか。
果たして、暫くすると一柳市介直末が首を持って現れる。
「殿、赤堀城城主、赤堀肥前守の首に御座います。城外にて逃げようとした為、止むを得えず討ち取りまして御座います」
まあ、討ち取っちゃったなら構わないか。
あの御老体も赤堀の家自体には執着があったけど、赤堀肥前守景治には興味なかったみたいだし。
しかし、市介が城主を討つと…まあ、強いのは知ってるが。
皆と違って城へ攻め入らなかったのが幸いしたのかな。
まあ、そんな事を考えるのは後にして、急いで浜田城へ向かわないとな。
「では、後の事は将監に任せる。五郎兵衛殿も赤堀城を御頼み申す。我等は急ぎ浜田城を攻める!」
「承知致しました」
あとは…
「万が一に備え、出来る限り急ぎ城壁の補強をやっておくよう」
城壁を乗り越えて侵入したので、それほど破損してはいないだろうが、敵にも同じことをされては敵わない。
赤堀城の後始末を名取将監と前田五郎兵衛殿に任せて、次の浜田城へ向かう事にする。




