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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
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141 足利なんて

三好長逸視点です。

 近江国志賀郡大津 三好家家老 三好日向守長逸


 足利義秋が各地に上洛を呼び掛ける書簡を送り付けているという話を知り、義秋討伐の兵を率い、近江国の大津まで侵出する。

 対応に出た六角家とは睨み合いが続いているが、まだ戦端は開かれていない。


「殿、六角右衛門督殿より書状が届きました」


 家臣である坂東大炊助(おおいのすけ)季頼(すえより)が報告にやって来る。

 睨み合いが続いている中、六角家当主である六角右衛門督に書状を送っていたのだが、その返答が返ってきたのだろう。

 書状を受け取り、内容を確かめる。

 どうやら右衛門督は、当家と手を結ぶ事に同意したようだな。

 思わずニヤリと笑みが溢れる。


「殿、右衛門督殿は何と?」


 家臣の一人である竹鼻対馬守清範が、右衛門督からどの様な返答が来たかと急かしてくる。


「六角家は三好家と手を結ぶ事に同意した」



「おお!それは目出度き事に御座いますな。これで我等は大和の松永霜台に集中出来まする」


 大炊助が、六角家との和睦に喜んでいる。

 これで東の事は六角家に任せ、此方は松永と畠山に注力する事が出来る。


 一応、織田家にも書状を送ったのだが、返事が返ってくる事はなかった。

 美濃の一色家が残っておれば、手を結んだのだが、昨年織田家によって滅ぼされてしまった。

 美濃衆も頼りにならぬな。



「大炊助、対馬守、兵の支度を頼む。六角家の三雲対馬守が、矢島への手引きをするとの事。三雲対馬守が来次第、矢島へ向け攻撃を仕掛ける」


 右衛門督は、六角家との同盟の条件に織り込んであった、足利義秋との手切れを受け入れ、襲撃を手引きをする事を飲んで、三雲対馬守を派遣してくるようだ。


「はっ!」


「日向守様、左馬頭様の事は…」


 大炊助は直ぐ様出陣の用意に取り掛かるが、竹鼻対馬守は左馬頭を如何するかと問うてくる。


「…構わぬ。斬り捨てよ」


 既に前の大樹を討っている我等だ。

 まだ大樹でもない左馬頭を討つ事に躊躇う必要などあるまい。


「承知致しました」


 足利将軍家の者を斬れとの儂の言葉に、微塵も躊躇する事もなく承知するとは頼もしい限り。

 元々、竹鼻対馬守の生まれである山科の郷民は、禁裏警固の命が下るなど、幕府よりも朝廷との繋がりが深い。

 大樹に任じられた訳でもない左馬頭の事など、然程問題ではないのだろう。


 そう、今更足利など必要ないのだ。

 儂と釣竿斎(三好宗渭)と主税助(岩成友通)の三人で、充分に天下を治める事が出来ている。

 既に何の力も持たぬ足利などに、天下を治める事など出来よう筈もない。

 むしろ邪魔なだけだ。

 亡き修理大夫(三好長慶)様も、幾度足を引っ張られた事か…


 御飾りの御輿であれば担ごうが、権力を求めるならば排除するべきであろう。

 我等の邪魔をする様な輩は、例え阿州(足利義勝、後の義栄)様であろうと、三好左京大夫(三好義継)様であろうと許しはせぬ。

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