137 出て来てくれないかな
広永城の城主は横瀬勝五郎。
さあ、揉み潰すぞ!と、行きたいところだが、やっぱり援軍がやってくる。
長門守殿が広永城を囲んでいる間に、俺等が援軍に対処する事となった。
援軍は、春日部氏の本処である萱生城の春日部太郎左衛門尉を主将として、同じく春日部氏の分家筋にあたる蒔田城の春日部家春、南部氏の富田城の南部兼綱、同じく南部氏の大矢知城の大矢知遠江守、朝倉氏の茂福城の朝倉掃部輔。
現在攻めている広永城の南に流れる朝明川を挟む様に、敵の援軍と睨み合う。
此方から川を渡って戦いを挑む必要もない。
敵が渡って来なければ、そのまま広永城を落とすだけの事だ。
敵は伊坂城からも攻めようとしていた様だが、滝川彦右衛門殿の軍勢が伊坂城を攻めようとしている為に、そちらにも援軍を送らねばならず、これ以上の援軍は無いだろう。
一応、北西にある伊坂城からの兵にも気を付けながら、敵が川を渡って来るのを待つ。
最悪、待っていれば長門守殿が広永城を落とすので、それまで対岸で睨み合っていればいいだけのお仕事です。
おら!川を渡って討ち取られるか、解散して逃げ帰るか早う決め~や。
「彦右衛門殿の軍勢が伊坂城へと取り付いたとの知らせがあった」
岩室長門守殿に、滝川軍の戦況を聞かされる。
「朝倉や冨永の援軍は?」
「星川城での戦で、既に」
やはり西からの援軍は来ないという事ですか。
「では、このまま彦右衛門殿が伊坂城を落とすまで睨み合うと致しますか」
このまま睨み合っていれば、いずれ彦右衛門殿がやって来るし、その前に広永城は落ちているかもしれない。
無理して川を渡る必要もない。
「いや、彦右衛門殿にばかり負担を掛ける訳にもいくまい。彦右衛門殿が伊坂城を落とす前に蹴散らしてしまいたい」
伊坂城に滝川軍が取り付いたとの知らせがあり、朝倉・冨永の援軍も蹴散らしたとの知らせがあったので、長門守殿はさっさと決めにかかるようだが…
え~、川を渡るのか…彦右衛門殿にばかり活躍されるのは嫌なのは分かるが…まあ、仕方ないか。
「では、対岸の軍勢を蹴散らしますか?」
「うむ、先ずは伊勢衆を渡河させ、然るのち我が軍も渡河させる。傳兵衛殿は援護を頼む」
え~、長門守殿が援軍の攻撃に加わるんかい!
しゃ~ないな~、広永城の警戒は此方でやるしかないか。
「では、敵軍の攻撃があり次第、手筈通り合図を送ります。広永城の方も某が引き継ぎましょう」
「うむ、宜しく頼む」
長門守殿のせいで配置転換をしなければ。
家臣、与力を集めて考える。
「広永城の包囲に、態と穴を作ろうかと思う」
「敵を逃がそうとするのですか?些か危なくは御座いませぬか?」
俺の提案に長門守の家臣の寺沢藤左衛門広正が難色を示す。
「城攻めなど面倒にて、態と援軍に合わせて此方を挟撃させる。始めから挟撃される事が策の一部ならば、此方が混乱する事もあるまい?」
本当に奥まで斬り込まれたら大変だが、ちゃんと最初から折り込み済みだし、兵力はウチが勝っているし、武将の質ではウチの軍に勝る所など数える程しかない!…はず…




