133 まだ味方なのだよ
さて、用事も終わって、後は桑名の国人衆を兵力をバックに脅して降伏させるか、兵力で力ずくに屈服させるかだな。
森家の親族で、北勢四十八家の一つであった森小一郎正久に北伊勢の案内をさせながら関氏(神戸家を含む)の勢力圏の手前を目指す。
どうせ、どの家も長島一向一揆の時になったら、皆揃って反乱を起こすんだろ?多分…
という事で、まずは近くの桑部城から攻める。
この城は空堀によって南北に分かれていて、北を毛利氏が、南を城主の大儀須氏が守っている。
まあ、その南に稲荷神社もあるが、それは置いておこう。
取り敢えず城主のいる南側を岩室長門守殿が、北側を俺が担当する。
当然森家だけでは兵が足りないので、長門守殿の家臣の寺沢藤左衛門広政らもウチの軍に付けられる。
今回は特に策略を仕掛けるつもりはない。
じっくりと数の差で押し潰す。
谷野大膳、大島鵜八、山田八郎右衛門、尾藤甚右衛門、堀尾茂助と、留守番を嫌がって付いて来た加木屋正次の6人で兵を分けて、城を攻めさせる。
ただ、守将の毛利次郎左衛門秀重は捕らえるように!(生死は問わず)
どうせ降伏したとしても長島一向一揆で裏切るんだろ? (偏見)
なら今の内に数を減らしておいても良かろう?
「今回は殿らしくなく、いやに慎重ですな」
俺の家臣の中では古参(五年程だが)である森小三次が揶揄してくる。
俺らしくはないとは、どういう意味だ?
俺は基本的に安全第一で、じっくりやる方だぞ。
元服前からの付き合いだし、俺の性格分かっているよね?
自分が前線に居たくないから、さっさと終わらせようとしたり、楽したいから策略で寝返らせたりする事はあるが、比較的安全な後方にいて、時間的にも余裕があるならのんびりやるよ?
その機会が無かっただけやで?
郡上郡での戦いでも、俺からは何もしてないし…
「何か御懸念でも御座いますか?」
少し考え込んでいると、今度は増田仁右衛門が尋ねてくる。
仁右衛門、お前はちゃんと俺の事が分かってるな!
「いや、六角家がな…」
と、理由を話そうとすると、
「確かに、この地は六角の勢力が強く、攻められぬ城が御座いますからな」
「六角とは共に上洛を目指す仲にて、何かあると大事にもなりかねませんからな」
兼松又四郎と安食弥太郎が、うんうんと頷いているが、違うよ?
そういう事を言ってるんじゃないよ?
まあ、お前らには期待してなかったが…
「千種や神戸、関など、六角家傘下の者共が動いておらぬ事でしょうか」
名取将監が、違う意見を述べてくる。
そう、他の者にもそういう事を考えて欲しいものだ。
脳筋の家臣が多い中、名取将監は拾い物だな。
この先、六角家が裏切るかどうかを気にしていたのだが…
織田が北伊勢を攻めている時に、六角も北伊勢を攻めて領土拡大しつつ、織田の邪魔をしてくるのが普通じゃないのかな?
別に北伊勢は織田に任せるとか密約がある訳でもないだろうし。
織田に北伊勢を攻めさせて、後で奪い取る積もりだろうか。
「恐らく六角家は上洛前に裏切ると踏んでいるのでな。千種などが動かぬのは、織田家に攻めさせ、後々掠め取る算段なのだろう」
と、見解を述べると周りの家臣達がざわつく。
「しかし、殿は何故六角が裏切るとお思いになられますか?」
「理由は色々あろう?敵視する浅井と同盟を結んだのが気に食わぬとか何とか」
戸田三郎四郎の問いに適当に答えるが、本当の所なんか知らんがな…
「六角のみで三好を抑え、上洛がなると?」
与力の林助蔵能勝が思案するが、それは流石に無理やろ。
三好長慶が死んで(死を隠されて、まだ生きている事になっているが)三好三人衆と松永久秀が険悪になり、後を継いだ義継も形だけの当主として不満を募らせているが、それでもまだ今の六角家よりは強いだろう。
「いや、三好と手を組んで我等の上洛を阻む」
また皆が騒ぎだしてしまった。
六角家が三好家と手を組むという話は、数人以外あまり受けがよくなかった。
後で驚いて、俺を崇めるがよい!本当に裏切ったらの話だが…




