132 前田兄弟
二人の話し合いで、俺は岩室長門守殿と行動する事になった。
で、俺達が目指すのは、川向かいにある桑部城となった。
だがその前に、長門守殿の与力として参加している佐脇藤八郎殿と話す。
養子に出されている藤八郎殿には、あまり関係ないかもしれないが、一応ね。
佐脇藤八郎殿は、前田又左衛門殿の弟に当たり、佐脇家に養子として入り、殿の小姓を務めていた。
桶狭間の戦いで、殿と共に出陣した五騎の小姓の一人で、今回は同じく五騎の一人である長門守殿の与力として付けられている。
祖父に当たる備後守清範は、足利義晴に仕え尾張一宮城城主として4万石を有した実力者だ。
凄く家格が高い。
1570年頃には、一宮城には関氏が入っているので、やっぱり原因は、藤八郎殿なのかな…
「では某も多少力になりましょう。兄の事、宜しくお頼み申す」
此方で面倒を見ている前田蔵人殿の生活費を払ってもらおうと交渉して、多少の資金を援助させる事に成功した。
兄弟間の仲は良くなるだろうから、別に藤八郎殿の損となる訳ではないし、構わないだろう。
こういう事で絆が深まったりするものだ。
兄弟仲が良くなり、蔵人殿や前田の旧臣たちの援助を取り付けた俺の好感度も上昇。
又左衛門殿には、後でフォローしておくが。
資金提供を約束してもらったので、少し藤八郎殿に役立つ情報を。
「柿城を治めていたのは遠縁ではありますが佐脇氏だとか。以前は神戸家と同盟の間柄でしたが、近江の六角家により攻め滅ぼされております。その後、神戸氏は六角家家臣の蒲生家より妻を貰い六角家についております故、旧臣共も内心面白くはなかろうかと思いまする。心ならず六角氏や神戸氏に残ったり仕えた者、牢人をしておる者も居りましょう。確か佐脇氏の生き残りも桑名におると聞き及びます。それらの者に手伝わせては如何でしょう」
どんなに細かろうが伝手は伝手、利用出来るならば利用しないとね。
本当に出来るかどうかまでは責任持たんけどね。
それ以前に本当に遠縁かどうかも知らんし。
まあ、繋がりそうではあるけどね。
「傳兵衛殿!」
自陣に戻ると、今度は前田兄弟の三男である五郎兵衛安勝殿に声を懸けられる。
「五郎兵衛殿。慶次郎殿には、会えましたか?」
五郎兵衛殿は、彦右衛門殿の所で陣借している前田慶次郎に近況報告するため、会いに行っていたのだ。
「慶次郎は、いずれ傳兵衛殿に御礼を申しに参ると」
「此方も藤八郎殿が多少の金子を用意すると申されておられた」
五郎兵衛殿は、ほっとしたように笑みを浮かべる。
「有難い。これで何とか、家臣を放逐せずに済みまする」
家督を奪われ城を放逐されても、なお主に忠義を尽くしてくれる家臣を捨てる事など出来ないのだろう。
自分がそんな目に遭わないようにしないとなぁ。




