128 長島対策
さて、北伊勢を攻めるにあたって不安材料がある。
長島の一向衆だ。
要らん事をされては敵わんので、何か手を打っておく必要がある。
そこで一向衆の僧である堀権之助殿と、今回は留守番となるが、過去に三河一向一揆に参加していた本多弥八郎を呼び出す。
「伊勢攻めに際し、願証寺の動きが気にかかる。願証寺には、桶狭間の戦いの折に捕らえた服部左京進と一族がおる。逆恨みで攻めて来るやもしれぬ」
「そうですな、傳兵衛殿のご活躍により左京進は荷ノ上を追われております故、あるやもしれませぬな」
俺の言葉に、権之助殿が同意を示してくる。
「そこで二人には願証寺が動かぬ様、交渉を頼みたい。願証寺が動かねば、左京進も無茶な事はできまい。仮に左京進のみが動いたとしても、大した事は出来まい」
「で、ありましょうな。しかし、殿には何か腹案が御座いましょうか?」
弥八郎が俺に何か策はあるのかと聞いてくるが、運が良い事に、実行可能かどうかは知らないが、一応考えはある。
「願証寺の証意殿は、昨年父の証恵殿が亡くなり後を継いだばかりで、まだ院家の相続を受けておらぬ。来年の証如上人の十三回忌がある。恐らく、その十三回忌の為に上洛した折、顕如様の許しを得て院家を継ぐ事を許される事となろう」
「確かに…」
「成る程、有り得ますな」
今の願証寺の住職である証意は、昨年に父親の証恵が亡くなった為に後を継いだが、まだ顕如から院家の相続を認められていない。
歴史通りならば、来年八月の証如上人の十三回忌に上洛し認められる事になる。
「道中の安全を保障する事と引き替えに話が出来ぬか?それに院家を継ぐ前に織田と揉め、万が一にも敗れる様な事となれば、顕如様も院家を継ぐ事を渋る動きを見せるやもしれぬ。その様な危険がある事を訴えれば、何とか動きを抑える事が出来るのではあるまいか?」
大事な相続前にケチがついて、家を継げなくなる可能性を示せば、少なくとも十三回忌が終わるまでは動かないのではないかな?
「そうですな、左京進殿も下手な事は出来ますまい」
よし、弥八郎のお墨付きも貰えたなら大丈夫だな!…二人が願証寺を何とかしてくれればな!
「二人には、周りの真宗の寺院を動かして、願証寺を抑えてもらいたい。柳堂あたりの協力を取り付けられれば心強い」
桑名坊舎柳堂は、長島一向一揆にも参加している力を持った寺だ。
この寺は東西分裂後には顕如の本願寺派に属しているので仲良くして、切り崩しの足掛かりにしたい。
元は三河の矢矧にあったので、三河で一向一揆に参加していた弥八郎達とも相性は良いのではないかな?
まあ、顕如に命じられたら一揆を起こすのだろうが、少しは手心を加えてくれる様になればいいな…出来れば、こちら側に付いてくれれば、なお良いのだが…
提案はしたので、後は二人に何とかしてもらいたい。
残っている家臣達は好きに使って良いから、伊勢攻めに集中させてくれよ。




