127 瀬田左京
瀬田左京視点です。
美濃国可児郡顔戸城 加木屋家家臣 瀬田左京
「左京、武田下野守と申す者を知っておるか?」
殿に呼び出され、その様な事を尋ねられる。
「武田下野守殿ですか…」
はて?どこの武田殿であろうか…
「うむ、恐らく甲斐国波木井辺りの出で、武田家より追われた者ではないかとの事であったが、その様な者が幕臣におらなんだか?」
なれば、あの者であろうか…
「では、武田下野守信登殿の事で御座りましょうか?確か甲斐の出で信玄入道に仕えておったとの覚えが御座りまするが…」
「ふむ。では、その者と渡りをつけられるか?」
「つかぬ事はありませぬが、召し抱えられるので?」
「いや、伊勢攻めの為に力を借りたいとか。伊勢の南部家の同族という事で、出来れば力を借りたいとの事だ。調略の文さえ貰えればよいと」
成る程、信玄入道より国を追われるような事を仕出かした者など、その程度でよかろうな。
「しかし、些か遠縁に過ぎるかと思われますが?」
「大軍に追い詰められた状況で、遠縁とはいえ同族の幕臣が寝返りを勧める事で降りやすくなる場面を作るのが目的だそうだ。失敗しても数で圧せるので構わないと」
成る程、成功すれば儲けものだと…
「承知致しました」
と、返事をすると自室へと戻る。
失敗してもよいといえども、成功して殿の手柄とした方が良いに決まっておる。
我が主は、織田家家臣、森三左衛門様に仕える斎藤久蔵様。
某は、殿の御父上の妙春様が御実家の近衞家より叡山へ出された頃より御仕えし、某の姉が斎藤道三入道の側室となっておった縁で、妙春様を御養子とする事が叶った。
しかし、大納言様は土岐悪五郎めに騙し討ちにあい、嫡子である亀若様は行方知れずとなった為、某は京へと戻り、先の大樹に仕える事となった。
しかし、一昨年の正月も間近な頃、亀若様が生きておられ、加木屋久蔵を名乗り森家に仕官しているとの知らせが届いた。
そこには某に近衞家との橋渡しを頼みたい、そして某を召し抱えたいとの事が書かれていた。
近衞家の血筋とはいえ、外に出された庶子の、そのまた子でしかない殿では難しかろうと思うたが、今年の初め、大樹が三好により討たれた事で情勢が不安定になり、近衞家の家司である進藤筑後守殿に話が通った。
その後、怨敵土岐悪五郎を見事討ち取ったとの知らせがあり、京を離れて故郷に居られる久蔵様に御仕えする事に決めた。
大納言様を騙し討たれ、亀若様も行方知れずとなり無念な思いを抱き、日々を過ごして来たが、再び亀若様と出会う事が叶った。
主家の覚えも良く、お子も生まれて益々の発展も期待できる。
傳兵衛様に傾倒するきらいはあるが、それでも当家の発展は間違いなかろう。
きっと妙春様も浄土にて、お喜びになっておられよう。
同じ過ちは繰り返さぬ!この命、亀若様と生まれたばかりの若君の為に役立たせてみせよう。




