123 傳兵衛は一向門徒?
明院良政視点です。
美濃国岐阜城 織田家家臣 明院良政
「殿、森三左衛門殿が参られました」
「うむ、通せ」
殿の呼び出しを受け、金山の森三左衛門殿が来られた。
「殿、お呼びと伺いましたが?」
「三左衛門、先日の畑佐の銀山だが、儂の直轄とし五郎八に任せる事とした」
三左衛門殿が畑佐で銀鉱を発見したと、報告があった。
その土地と鉱山の管理を金森五郎八殿にさせるという。
「それと傳兵衛に、稲葉山での働きと合わせ、戸田に四百貫の知行を増やし、傳兵衛より話のあった土岐美濃守を呼び戻す事、斎藤五郎左衛門を召し抱える事を許す」
「はっ」
「しかし、お主の子は飽きさせぬな。姉小路を追い返し、佐藤六左衛門を連れて参陣し、長井隼人を自刃させた。ついで手に入れたばかりの領地で銀山を見つけるとは…」
殿が呆れたような声で感心される。
三左衛門殿も少々恐縮しておられるようだ。
「その事に御座いますが、傳兵衛が今までよりも銀を多く取り出せる方法があると申しまして、試して頂きたいと」
三左衛門殿は、そう言うと懐から書簡を取り出され、それを小姓の堀菊之助が受け取り殿へ手渡す。
「何!?」「なんと!」
なんと!そのような事が出来るのか!?
思わず某の声も漏れる。
「傳兵衛も、うろ覚えの様で試行の必要は御座いますが、実際に南蛮で行われている技にて、出来ぬはずはないと申しておりました」
殿は、書簡を舐める様に読まれ、
「やらせてみるがよい。結果が出れば褒美を出す」
と、その案を採用なされた。
しかし、傳兵衛殿は何処から其のような知識を得られたのやら…
「彦右衛門が桑名を落とした。年明けより北伊勢へ出るが、お主には東美濃を抑えてもらわねばならぬ」
「はっ」
我等が岐阜城を攻める少し前、蟹江城の滝川彦右衛門殿が桑名に侵攻しほぼ制圧した。
年明けより本格的に北伊勢への侵攻を始めるが、三左衛門殿は東美濃を抑えてもらわねばならぬ為、北伊勢攻めには連れて行けぬ。
武田も、遠山左近佐殿の息女を殿の御養女として、信玄入道の子、諏訪四郎殿へと嫁がせたが、過信は出来ぬしな。
当然それは三左衛門殿も分かっておられる。
「代わりに、傳兵衛を出仕させ伊勢へ連れて行く。構わぬな?」
「無論に御座います」
信頼の厚い三左衛門殿を金山城から動かせぬならば、代わりに美濃攻めで活躍した子の傳兵衛殿を使うという事か。
人質も兼ねておるのかとも思ったが、三左衛門殿ならば、その心配もなかろう。
万が一に間違いがあったとしても、三男が生まれたばかりで三左衛門殿も後継には困るまい。
「彦右衛門が傳兵衛の事を気に掛けておってな、伊勢攻めに是非とも力を借りたいと言うておる」
「それは傳兵衛も喜びましょう」
苦笑気味に三左衛門殿が言葉を返す。
「失礼致します。殿」
小姓の堀菊千代が、殿に知らせを持ってくる。
「滝川彦右衛門様、岩室長門守様、お着きになられました」
「通せ」
三左衛門殿の他にもお呼びになられておられたのだろう、滝川彦右衛門殿と岩室長門守殿が来られた。
「彦右衛門、傳兵衛の件だが三左衛門の了承は得た」
殿の言葉に彦右衛門殿はニヤリと不敵に笑みを浮かべ頭を下げる。
「某の我儘の為に骨を折って頂き感謝の念に堪えませぬ。三左衛門殿も申し訳ない」
一方、長門守殿は難しい顔で三左衛門殿に質問する。
「三左衛門殿、某も傳兵衛殿と共に戦に出るのを楽しみにしておりますが、傳兵衛殿は熱心な一向門徒と聞きます。このような事を聞くのは無礼と承知なれど、願証寺が手を出してきた場合、大丈夫に御座いましょうか?」
確かに傳兵衛殿は、畑佐での戦でも『南無阿弥陀仏』の旗印を使うほど熱心な一向門徒だと聞いている。
家臣にも一向一揆に参加したものも多い。
願証寺と揉めると、厄介な事になりはしないか?
「傳兵衛自身に関しては全く問題はなかろう。あれは一向衆を嫌っておる故。傳兵衛は一向宗ではなく、蓮如上人の真宗を信仰しておると常々言っておるし、一向衆は蓮如上人の教えに背く者共だと周りに洩らしておる」
ほう、では傳兵衛殿は一向門徒ではないと。
「願証寺相手でも問題ないと?」
殿も気になったのか三左衛門殿に問われる。
「問題ありませぬ。ただ家臣の方は、他宗派のもおりますが、一向門徒が多いのも事実。他の者を入れた方が良いやもしれませぬ」
「ふむ、そこは考えねばならぬか…」




