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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
125/554

121 駿府へ

飫富新兵衛景友視点です。

 甲斐国巨摩郡西八幡村 飫富新兵衛景友


 祖父の兵部少輔が謀反の罪で切腹を申し付けられ、太郎様の家臣達も散り散りとなった。


 祖父が切腹を言い渡され、家督をその弟である三郎兵衛が継ぐと聞かされると、身の危険を感じ、叔父となる四歳の坊丸を連れて出奔する事にした。

 なんとか駿府へ向かい、坊丸を預けられる家を探さねばならぬ。

 直ぐに甲斐府中にある屋敷を出て、所領のある西八幡村へ向かい、そこから駿河を目指す事にする。

 幼い坊丸や乳母を連れて逃げるのは難しかろうが、見捨てる訳にもいかぬ。



 甲斐府中を出てから暫くして、漸く所領の西八幡村に差し掛かろうかという頃、後ろをつけてくる者がいる事に気付く。

 人数は、恐らく一人。

 甲斐府中を出たときには、確かに誰も後をつける者はいなかったはず…この辺りで張っていたとも思えぬが…

 追手ならば一人で来る訳もなし、仮に追手だとしても、何故(いま)だに襲いかからず後をつけるだけなのかが分からぬ。


「もし、そこの御方」


 向こうも此方が警戒しているのに気づいたのだろう、声を掛ける事にしたらしい。

 どうやら敵意はなさそうだな。


「何用に御座ろうか」


「無用の警戒をさせて申し訳御座らぬ。某、尾張織田家家中、森家家臣森勝三郎と申す。暫し某の話を聞いて頂きたい」


 他国の者か…ますます分からぬな。


「某は主命にて、太郎殿の家臣で追放された者や出奔する者を召し抱える事が出来ぬかと、甲斐へ参った者に御座る。今は駿府へ参る途上に御座ったが、なかなかの丈夫が幼子や女を連れ急ぐのを見かけ、召し抱える事ができぬかと御声掛け致した。どうであろう、当家への仕官に興味は御座らぬか?」


 家が乗っ取られた今、武田家には居られぬ。

 同盟を結んだ織田家ならば下手な手出しは出来まいが、どうしたものか…


「済まぬがこの子の事もある」


 今は坊丸のことを第一に考えねば…


「なに、今すぐ返事をせよとは言わぬ。某も駿府へ向かわねばならぬ。此方の用が済む迄に決めてもらえれば良い」


「忝ない」


 勝三郎殿を連れ屋敷へ向かい、屋敷の者に暇を出した後、駿府を目指す。

 富士川沿いを休み休み進み、駿河の岩渕から東海道を西へと進むと、別段問題もなく駿府へと辿り着く。



 さて、駿府へと辿り着いたは良いが、これから如何するか…

 すると、そんな某を見かねたか、勝三郎殿が、「某も手伝いましょう」と、協力を申し出てくれた。


「しかし、宜しいのですか?」


「なに、騎虎の勢いに御座る。その代わり、此方の頼みを聞いていただきたい」


「ほう、それは?」


「某、主命にて、曽根内匠助殿に会いに参ったのだが、居場所を探すのを手伝っていただきたいのだ。無論、坊丸殿を優先していただいて構いませぬ」


 成る程、勝三郎殿は内匠助殿を召し抱える為にやっていたのか。


「お受けいたそう。勝三郎殿も宜しく御頼み申す」


 まあ良い、内匠助殿に御力を御貸しいただけるやもしれぬしな。

甲斐お使い編4

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