118 甲斐でのスカウト活動
奥村藤蔵元清視点です。
甲斐国山梨郡甲斐府中 森可隆家臣 奥村藤蔵元清
殿の御命令で森勝三郎殿の供として、堀田新右衛門殿、渡辺六左衛門殿と甲斐国に入り、曽根内匠助殿を訪ねる。
しかし残念ながら、既に何処かへ逃れられた後であった。
「致し方あるまい。某は内匠助殿を追って駿府へ向かう。其方等は、予定通り東光寺へ向かった後、放逐された者の中に森家への仕官を望む者がおらぬか探ってくれ。その後、切りの良い所で美濃へと戻れ。後の事は六左衛門に任せる」
「さて、如何致しますか…」
駿府へと向かった勝三郎殿と別れ、六左衛門殿と新右衛門殿に今後の方策を尋ねる。
「流石に誰か一人は、美濃へ連れて戻らねばなるまい」
それはそうだ。
何しに甲斐下りまで出向いたのか分からん。
「それに武田家の動きも調べねばなるまいな」
新右衛門殿と六左衛門殿も思案顔となる。
「よし、某が太郎殿の旧領へ赴き、人を探すとしよう。新右衛門と藤蔵は、ここで武田の動きを調べてくれ」
新右衛門殿を見ると頷いているので、六左衛門殿の言葉に頷き、
「よろしいでしょう。では十日後に酒折宮で会うという事で」
と、同意する。
「承知した。では、十日後に」
六左衛門殿と別れ、新右衛門殿と二人となる。
「して、如何致しましょう、新右衛門殿」
「殿は、詳しくは大殿が調べる故、大体で良いと仰せではあったが…何処かに五郎右衛門殿のような調子の良い者はおらぬかのう?」
「流石に五郎右衛門殿のような方は、美濃にしか居りますまい」
武藤五郎右衛門殿のようなお調子者が、幾人もおっても困るしな。
それは扨置き、快川和尚にでも聞くしかないか…
「取り敢えず、快川和尚へ文を届けに参ろうか」
新右衛門殿と東光寺に滞在しておられる快川和尚を訪ねようという事に決まる。
「此度の事は公事方への付け届けが足りなんだだけじゃ!次は今少し増やして参る!」
突然、大声が上がり、男が怒りながら館を出て行くのが見える。
「あの者、斯様な事を申して大丈夫なのであろうか?」
平然と悪態をついて去っていく男に唖然となるが、周りの者は平然としたものである。
その辺にいた者を捕まえて聞いてみる。
「ああ、いつもの事に御座います。曲淵様は些細なことでも公事方に訴えられるが、それが認められた事が御座いませぬ故、いつも悪態をついて帰られます。この辺りの者は皆、慣れてしまいました」
新右衛門殿と二人、顔を見合わせる。
「どこにでも困った者はいるものですな」
曲淵という者が去るのを眺めながら新右衛門殿に話しかける。
「ふむ、あの者に聞いてみるか。色々話して貰えそうだ」
「大丈夫でしょうか?」
いきなり癇癪を起こされはしないだろうか?
「なに、某等は間者でもなんでもない。快川和尚に文を届けに来ただけの使い走りだ。堂々と疑問に思った事を聞けば良い。向こうが断れば素直に退けば良いだけの話ではないか」
まあ、良いか…
「出来れば向こうから放逐された家臣の話を出させて、その流れで牢人を召し抱えたいところですな」
曲淵殿に縁のある者がおれば、逆に恩を売る事も出来よう。
「…そこまで考えてはおらなんだが、お主中々に腹が黒いのう」
甲斐お使い編1
ちょっと他人視点が続いてしまうので、連日投稿します。




