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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
118/554

114 右兵衛大夫

一色義糺(斎藤竜興)視点です。

 美濃国稲葉山城  美濃一色家当主 一色右兵衛大夫義糺(よしただ)



 織田軍に稲葉山城を囲まれて幾日が経っただろうか…

 浅井との同盟も織田に先手を取られ、長井隼人が頼りにしていた武田も織田家との同盟に至った。

 飛騨の姉小路が郡上郡を荒らしているが、その後の知らせもない。

 西美濃は裏切り、東美濃は織田家に制圧された。


「右兵衛大夫様、佐藤六左衛門殿より援軍の知らせが来ております」


 長井隼人正がやって来る。


「六左衛門が?今更か?」


 成吉(なりよし)摂津守がその知らせに疑問を抱く。

 延永(のぶなが)備中守(びっちゅうのかみ)もそれに同意している。

 こちらへ援軍を出すならば、疾うの昔に出しておるはず。


「あの六左衛門の事、おそらく郡上郡で動きがあったのではないか?」


「姉小路が勝ったか?遠藤が勝てば織田方についたであろう?」


「郡上郡の知らせは来ぬのか?」


 と、家臣たちの話し合いが続く。


「右兵衛大夫様、このまま籠城を続けても、最早(もはや)援軍もありませぬ。ならば今、六左衛門殿と織田本陣を襲い、信長めを討つしかありますまい」


 隼人正が決断を強いてくる。

 そうだな、漸く勝機が見えた。

 織田を挟撃し、稲葉山城より追い払うのだ!


「そうか!では皆の者!六左衛門と協力し織田を討て!」


「「「はっ!」」」

 

 やって来た勝機に皆の顔が明るくなるのが分かる。

 隼人正を残し、皆が勇んで戦支度で出ていく。


 諸将がいなくなると、隼人正が誰にも聞こえぬように小声で話してくる。


「万が一の時は舟を用意しております故、長島へ落ちられませ」


「なに?」


「万が一、六左衛門が織田方へ寝返っておれば、敗れましょう。ですが、このまま籠城を続けても勝機はございませぬ」


「あやつらに、俺が逃げるまでの時間を稼がせるのか…」


 信長めには勝てぬということか…祖父と父が手にした、この美濃を捨てろと…


「誠に六左衛門が援軍であれば勝てましょう」


「そうか…隼人正に全て任せる」


 そう言って隼人と別れ、稲葉山城から落ち延びる用意をする。


「父上、申し訳ございませぬ…」



 やはり隼人正の言う通り、六左衛門は織田と通じておったか。


 六左衛門の寝返りが確実となったところで、用意された舟で長良川を下り伊勢長島へと向かう。

 隼人正が戻って来るのを待たず、僅かな供回りと共にさっさと脱出した。


 先程までいた稲葉山城を舟より眺めると、沸々と怒りが沸いてくる。

 裏切って織田方についた稲葉、伊賀、氏家、岸、佐藤、大沢ら美濃の諸将!

 そして何より、尾張の織田信長!


「おのれ信長め、必ずや美濃を取り戻してやる、ぐがっ!?」


 そう誓いを立てた時、喉に痛みが走る。

 訳も分からずに体は後ろへ倒れていき、周りの騒ぐ声を遠くに聞きながら、川へと落ちていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大島光義…百々百中の妙
[一言] あれ?暗殺されたの?
[気になる点] 龍興か竜興か……。 途中までは「龍興」で統一されていたのに、ここ数話は「竜興」表示になってます。
2021/06/17 01:56 退会済み
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