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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
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113 潜入!稲葉山城!

「半右衛門殿!右兵衛大夫(うひょうえのたいふ)様を見なんだか?」


 本丸へ向かうと長井半右衛門が、なかなか強そうな武者に話掛けられる。


「右兵衛大夫様が如何されましたか?主水正(もんどのしょう)殿」


何処(どこ)にも右兵衛大夫様の御姿が見当たらぬ!」


 主水正と呼ばれた男は、龍興が見当たらずに苛立っているようだ。


「…父が舟を用意しておりました。もしや、既に城を出られたやも知れませぬ…裏門の兵も何か隠しておる様子。今一度、問い詰めた方が良いかもしれませぬ」


「なんと!」


「主水正殿!やはり半右衛門殿も此方へ参られたか!それで右兵衛大夫様は?」


 龍興が逃げ出したかもしれぬと茫然としている主水正の元へ、また一人やって来る。


作内(さくない)殿、どうやら右兵衛大夫様は、既に城を出られたようだ…」


「確かめねば分かりませぬが、門番の様子から裏門より出られたのは間違いないかと思われる。某とすれ違わずに出られた事から、戦が始まって直ぐに落ちられたのでありましょうな」


 主水正と半右衛門の言葉を聞き、作内は「確かめに行く」と裏門へと走り去る。


「ところで、隼人殿は如何された?」


「残念ながら、森家の者に討たれました。某は右兵衛大夫様を御守りするために…」


 主水正が慰めの言葉を掛けようとしたのだろうか、口を開こうとしたその時、搦手門より火の手が上がるのが見える。

 やっと藤吉郎がやって来たか…


「なんと!半右衛門殿、急ぎ向かわねば!」


 主水正が搦手門(からめてもん)へ向かおうとするのを見て、「囲め!」と皆に指示を飛ばす。


「これは!半右衛門殿!」


「大人しくしていただこう、主水正殿。某は既に織田家の家臣に御座る」


 混乱する主水正に槍を突きつけながら、指示を飛ばす。


「小三次、弥太郎、又四郎、三弥左衛門、新兵衛、新助、才蔵!藤吉郎殿と協力し、内より門を開け放て!右兵衛大夫が戦いの前に逃げたと叫ぶのを忘れるなよ!」


「「「応!!」」」


 皆が行ったところで、主水正殿に話しかける。


「主水正殿、織田家に降りなされ。主水正殿程の勇士、戦いの前に城を捨てるような主には、宝の持ち腐れに御座る」


 槍を突きつけながらの交渉、拒否すれば即、死となる。


「致し方御座らぬ…織田家に降ろう」


 流石に命を捨ててまで龍興に仕えることはなかったな。

 まあ、戦いの前に逃げるような主君など願い下げだろう。


「有り難い!主水正殿も開城に御協力頂きたいのだが」


「承知した。その前に貴殿の名を伺いたい」


「森家嫡男、傳兵衛に御座る。新八郎、権之進。主水正殿に付いていけ!」


「「はっ」」


 主水正の見張りに新八郎と権之進を付け、送り出す。


「さて、先程より此方を窺っておられる御方、そろそろ出てきては如何か?」


 隙をみて逃げようとしているのか、降伏しようとしているのか分からないが、視界の隅にチラチラと映っている人影が見える。


「失礼致した。某、美濃守護土岐美濃守が子、五郎左衛門と申す。某の身の保証を頂きたい」


 土岐美濃守といったら、土岐頼芸(よりのり)か…面倒臭いな。


「父、三左衛門は美濃守様に仕えていた事も御座います。決して粗略な扱いは致しませぬ故、御同道頂きたい」


 これは殿に丸投げ案件だな。


主水正の読みは、自称なので『もんどのかみ』じゃなくて『もんどのしょう』にしています。

あっ、隼人正のルビ振ってないや…

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