111 この茂助は知らない
「隼人正殿と半右衛門を丁重に本陣までお連れせよ。手柄は二人で分けるがよい。あと殿に、右兵衛大夫が、既に城を捨てておるやも知れんとお伝えせねばならぬ」
三郎四郎と茂助と共に、長井隼人の遺体と息子の半右衛門を織田本陣へと連れて行き、殿の沙汰を待つ。
「しかし、右兵衛大夫を逃してしまいましたな」
「潔く、まだ稲葉山城に篭っておられるやも知れぬがな」
三郎四郎は一色龍興が逃げ出したと思っている様だが、まだ分からんけどね。
まあ、逃げ出しているとは思うけど。
稲葉山城落城時に捕らえられて、殿に偽物呼ばわりされて逃がされるなんてゲームみたいな展開は、流石にないだろう。
先の戦いで稲葉山城に逃げ帰った者もいるので、もう一戦しなければならない。
龍興が逃げ出していれば、素直に降伏して城を明け渡してくれるかもしれないが…
稲葉山城の攻略は、秀吉が搦手から攻めて火を着けたって話があったよな。
本当のところは知らんが。
狙ってみるのも良いかもしれない。
「茂助、城の者に見つからずに搦手門を攻める道を知っておるか?」
一応念の為に茂助に聞いてみる。
「はっ?生憎存じませぬが…」
まあ、知らんよな。
だって茂助、牢人して稲葉山城の麓で猟師生活なんてしてないもんな。
「殿、只今戻りました」
父親の来訪に蓮台に戻らせた斎藤内蔵助が戻ってくる。
「して、如何な話であった?」
「はっ、道哉殿が所領を捨て、奥州へ落ちられると。京の様子も聞いて参りました」
ああ、やっぱり蜷川新右衛門さんは奥州へ逃げるのね。
「京の様子は、後で話してもらおうか」
うん、京で三好家の動きとか大事だからな。
「それと道哉殿の末子を、養子とする事となりました」
へぇ~…そんな人いたかな?
ああ、謎の弟の斎藤親三の事か。
まあ、いいや。
内蔵助が戻って来たんだから、兵の指揮は任せて、俺は稲葉山城への潜入を試みてみようかな。
稲葉山城への道には幾つかのルートが存在する。
正面の道で最もなだらかな七曲口。
秀吉が攻め入ったと云われる百曲口。
七曲口の裏側にあり、距離は遠くて沢を横切るが歩きやすい水の手口。
他にもあるが、今回チャレンジしてみたいのは、現代で鼻高登山道と呼ばれる北東からの城の東に出るルートだ。
このルートは龍興が長島へ逃れるのに使ったと云われるルートだ。
まだ逃げていなければ、鉢合わせになるかもしれない…まあ、ないだろうけどね。
稲田次郎兵衛、奥田三右衛門、山内次郎右衛門、森小三次、安食弥太郎、兼松又四郎、本多三弥左衛門、仙石新八郎、岸新右衛門、加治田新助、可児才蔵、野中権之進の若さ溢れる9人の脳筋を含む、家臣12人と共に稲葉山城への突入を敢行しようと思う。
まずは、殿にお許しを貰わないとな。




