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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
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110 長井隼人正

長井道利視点です。

 美濃国稲葉山城  美濃一色家家老 長井隼人正道利


「右兵衛大夫様、佐藤六左衛門より援軍の知らせが来ております」


 右兵衛大夫様へ援軍の報告をする。


「六左衛門が?今更か?」


 成吉摂津守がその知らせに疑問を抱く。

 延永備中守もそれに同意している。


「あの六左衛門の事、おそらく郡上郡で動きがあったのではないか?」


「姉小路が勝ったか?遠藤が勝てば織田方についたであろう?」


「郡上郡の知らせは来ぬのか?」


 と、同輩たちの話し合いが続く。


「右兵衛大夫様、このまま籠城を続けても、最早援軍もありませぬ。ならば今、六左衛門と織田本陣を襲い、信長を討つしかありますまい」


 右兵衛大夫様に決断を強いる。


「そうか!では皆の者!六左衛門と協力し織田を討て!」


「「「はっ!」」」

 

 やって来た勝機に、皆の顔が明るくなるのが分かる。

 皆が勇んで戦支度で出ていくと、右兵衛大夫様に誰にも聞こえぬように小声で話しかける。


「万が一の時は舟を用意しております故、長島へ落ちられませ」


「なに?」


「万が一、六左衛門が織田方へ寝返っておれば、敗れましょう。ですが、このまま籠城を続けても勝機は御座いませぬ」


「あやつらに、俺が逃げるまでの時間を稼がせるのか…」


「誠に六左衛門が援軍であれば勝てましょう」


 六左衛門が今頃になって此方の援軍に来たとは考え辛い。

 恐らくは、織田と繋がっておろう。

 皆もそうと知って、最後の戦を仕掛けるつもりであろう。

 一色に殉じる為か、己の意地の為か、包囲を抜けて落ち延びる為か、或いは力を示して織田に己を高く売りつける為か…


 このまま待っておっても、援軍の当てもなければ何れ敗れてしまう。


「そうか…隼人に全て任せる」


 右兵衛大夫様も察して下さったのか、言葉少なに軍を任せて頂いた。

 まあ、六左衛門が誠に援軍に来たという事もないではない。



 城門を開け、織田本陣へと駆ける。

 信長さえ討てれば、まだ勝てる見込みはある。

 が、しかし…


「父上!佐藤六左衛門が裏切りました!遠藤家の旗も立っております!そのまま後方より攻め込んで来ます!」


 息子の半右衛門が知らせに来る。

 やはり、そうであろうな。

 このまま織田本陣まで届くか?


「西より坪内の軍勢!」


「前方の敵、向かってきます!!奥田、堀、前野の旗印!」


「東より敵襲!旗印は鶴紋!森家かと!」



 森家か…三左衛門は烏峰におるとなると、嫡男の傳兵衛であろうか…

 (いず)れにしても、ここまでであろう。


「半右衛門!長良川を下り長島へ向かう。右兵衛大夫様も既に落ちられておろう。先に行って舟の用意を!」


 舟を用意する為の時間を稼いでやらねばな。

 今少し耐えねばならん。



 頃合いを見て、一目散に長良川へと駆ける。

 半右衛門に追いつくが、舟が見えない。


「半右衛門、舟は如何した?」


「父上!舟が見当たりません!」


 なに?まさか…


「舟は我等が対岸へと移しておいた。近隣の舟も一時対岸へ移すよう、言いつけてある。最早逃げ道はないぞ!」


 周りより敵兵が現れる。

 此奴等(こやつら)、舟で落ち延びる事を読んでおったのか…


「舟の事が読まれるとは…おぬし等の名は?」


「森三左衛門様が御嫡男、傳兵衛様の家臣、戸田三郎四郎氏繁!此度の事は全て傳兵衛様の掌の上よ!」


「同じく堀尾茂助吉晴!長井隼人正殿!その首、貰い受ける!」


 ほう、三左衛門の子に悟られたか。

 三左衛門は良い子を持ったものだ。

 儂の長子などは、長良川で我が兄である道三を討ったはいいが、小牧源太に首を奪われ、それを嘆いて高野山に入ってしまうような軟弱者だが。


「しかし、お主等だけで、我等を討てるかな?」


 三郎四郎とやらの兵より、まだ此方の方が多い。


「心配御無用!ほれ、後ろより我等(われら)の主も来られたわ」


 成る程、確かに後方より兵がやって来るのが見える。

 最早これまでか…


「お主等、一色右兵衛大夫様を見なんだか?」


 三郎四郎と茂助の二人は顔を見合せる。


「我等は見ておりませぬ」


 そうか、無事に逃げられたか…

 ならば、もうよかろう。


「半右衛門、最早これまでだ。右兵衛大夫様が落ちられた今、一色への義理は果たした。お主は、織田へ降れ」


 半右衛門にそう告げると、兵に槍を下ろさせる。


「お主等に手柄をくれてやろう」


 そう言って二人を見つめた後、(みずか)ら喉を掻っ切った。

1565年の話数が多くなったので、途中ですが99話の後に、登場人物4(81~99話)を挿入します。

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