109 隼人正を追え
作戦通りに稲葉山城の城門が開き、敵の軍勢が織田本陣を襲う。
城に篭っていた諸将が織田の本陣目掛けて駆けていく。
その時、佐藤六左衛門の軍が、自分の旗と共に、借りてきた遠藤家の旗を立て織田軍に合流し一色軍へと襲いかかる。
援軍だと思った?残念!敵でした!というやつだ。
これで郡上郡も治まって、姉小路家も追い返したと分かるだろう。
ひょっとしたら領地と引き換えにしてでも姉小路家に援軍を頼むという可能性もあったかもしれないが、それももう無理。
孤立無援で、どうしようもないという事だ。
戦意の失せた一色軍など物の数ではなく、周りの兵たちも加わってきて、一色軍をタコ殴りにしていく。
俺たちは、ひたすらに長井隼人の首を狙いにいく。
渡辺兄弟、山田八郎右衛門、本多三弥左衛門、鳥居四郎左衛門、兼松又四郎、安食弥太郎、森小三次、可児才蔵、加治田城親子ら、ウチの脳筋軍団を突っ込ませる。
残りは俺の護衛な。
俺も親父がいない分、そこそこ活躍して森家の存在をアピールしておかないといけないから、元服の時に貰った十文字槍を手に突撃する。
お前ら、絶対に俺を守ってくれよ!
脳筋どもが群がる敵を、千切っては投げ千切っては投げしているのを横目で眺めていると、不意に敵からの圧力が消えたように感じられる。
これは、逃走に移ろうとしているのかな?
傍に控えて指揮をとっている渡辺半蔵の方に顔を向ける。
「殿、敵が退きます。如何が致しますか?」
「長井隼人は、まだ狙えるか?」
出来るならば長井隼人は此処で終わって貰いたい俺は、半蔵に訪ねる。
無理ならやらないぞ、追撃して逆に討ち死にしたくはないからな。
「無論に御座います」
その返答に馬を飛ばして、長井隼人を追う。
稲葉山城へは、こちらの軍の方が近いので、迂回する長井隼人に追いつけるはず。
まあ、他の場所へ逃げたりすれば分からないが…
「長井隼人正、稲葉山城へ戻らず、北へ向かったとの事です」
途中、敵兵を捕らえて情報を聞き出すと、長井隼人は北、恐らくは長良川へと向かったようだ。
舟で長島へと逃げる気なのだろう。
稲葉山城落城後、一色義糺(斎藤龍興)が舟で長島へと逃れたのは有名だが、馬で不破関を抜けて京へ向かった説もある。
不破関の方は、伊賀伊賀守殿に頼んであるので、竹中久作殿等に固めてもらえるんじゃないかな?
長良川の方は、渡し船には乗せないよう通達しているし、堀尾茂助と戸田三郎四郎に舟のある場所を探索させているが、上手くいけば邪魔してくれるだろう。
長井隼人を追い長良川へと向かうと、三郎四郎からの知らせが届き、長井隼人を発見したとの報告を受け、急いで向かう。
すでに長井隼人と三郎四郎、茂助の兵が対峙していたが、俺らが現れると長井隼人は諦めたのか、自らの首を掻っ切って果て、残りの兵は降伏した。




