108 目指すは…
佐藤六左衛門殿の軍と共に、稲葉山城から見えないように、こっそりと戦場の手前までやってきた。
本陣の殿にお伺いをたてると、敵の援軍に見せかけて、稲葉山城から敵を引きずり出せとのことだ。
どうやら短期で城を落としたいようだ。
六左衛門殿には、織田の本陣を一色軍と挟撃出来る位置へと移動しながら、稲葉山城へ使いを出し、出陣を促してもらう。
一方、俺はというと、六左衛門殿に別れを告げ、こっそり蓮台の兵達と合流する。
前以って決めてあった通り、俺が不在でも、ちゃんと出陣してくれたようでなによりだ。
「傳兵衛様!」
「三右衛門、一色の動きはどうなっておる?」
出迎えた奥田三右衛門に、稲葉山城の動きを尋ねる。
「はっ、稲葉山城を堅く守って出てきません」
頷くと、主だった者を集めさせる。
蓮台軍を率いている奥田三右衛門、山田八郎右衛門、堀尾茂助。
久々利から付いてきている渡辺半蔵。
「佐藤六左衛門殿が敵援軍として動き、稲葉山城から一色軍を引きずり出した後、本陣と共に一気に殲滅する」
皆は静かに頷いている。
「予定通り引きずり出す事が出来れば、我等は長井隼人を狙う」
皆の眼に力が篭るのが分かる。
やはり皆、大物の首を狙いたいのだろうな。
「郡上郡の遠藤六郎左衛門殿の御母堂が、長井隼人の後室に入っておられる。長井隼人を稲葉山城へ戻らせると、御母堂の命が危うくなる。故に必ず仕留める必要がある」
母親を無事に返した方が、六郎左衛門殿からの好感度が上がるよね。
別に殺されてしまうのは構わないんだが、一番嫌なのは、史実通りに長井隼人が落ち延びて、母親も無事なパターンかな。
この母親は、長井隼人が死んだ後に出家するのだが、本願寺教如に帰依してしまうので、一向宗との繋がりが強くなってしまう。
長井隼人は稲葉山城の落城時に死亡説(1567年)や摂津白井河原の戦いでの死亡説(1571年)などがあるが、前説なら教如は十歳、後説なら十四歳。
十三歳で得度しているので、流石に得度前の教如に帰依する事はないだろう。
後々しぶとく抵抗を続ける教如よりも、最後は織田に屈した顕如の方に帰依してもらった方が幾分マシだろう。
この歴史では教如や顕如に帰依するとは限らないが…
という事で、長井隼人には此処でリタイアしてもらいたい。
「我等が目指すは長井隼人の首一つ!」
「「「応!!!」」」
あっ、でも茂助は、別の仕事してもらうからね。
あとは…戸田三郎四郎でいいか。
二人には悪いが、長良川の舟の調査をしてもらう。
信長公記では、一色龍興や、長井隼人は舟で川を下り、長島まで逃亡しているので、先にその足を潰してもらう。
フロイス日本史では、騎馬で京へ落ち延びてしまうのだが、そこはイガイガに任せよう。




