103 最勝寺の戦い
「専賢殿は、こちらが攻め込むに合わせて中門を閉じ、内からの挟撃を約束して頂きました」
堀権之助殿の報告を受ける。
なんだよ~、自分の敷地に兵を入れておいて、不利そうだから裏切るのかよ~。
楽だからいいけど…これだから…
「最勝寺と話がついておるのなら、降伏を呼びかけながら挟撃すればよい。何も特別な事は必要ない。それよりも畑佐での戦について思う所を述べよ、内蔵助、大膳」
斎藤内蔵助利三と谷野大膳衛好に、今後の方策を尋ねる。
出来るだけ此方の被害が少なくて済むように。
遠藤家が越前飛騨への門番の役割が果たせるように。
郡上の一向衆を織田方へ取り込めるように。
森家への印象が良くなるように。
くらいかな?姉小路家は、まあいいや。
「只今、夏目次郎左衛門殿、肥田玄蕃允殿、小栗信濃守殿らが、此方へ向かっております。肥田玄蕃允殿、小栗信濃殿の御二方に前へ出て頂きましょう」
俺は、内蔵助の意見に頷く。国人衆の勢力も削いでおかないとな。
それに粘りに定評のある(俺評価)夏目次郎左衛門ならば、間違いないだろう。
「最勝寺にも出て頂きましょう。このままでは安養寺との差が拡がると言えば、やってくれましょう」
郡上郡では、安養寺と最勝寺が一向宗の中心となっている。
片方に肩入れされては、もう一方の寺は面白くないだろう。
ましてや今回、謀反に加担してしまっているので、失点を取り戻すためにも頑張ってくれるだろう。
夜、専賢の手引きによって奇襲をかける。
寝ていた所を叩き起こされ実力が発揮できない上、中門は閉じられ敵は何処にも逃げられない。
突入すると、中から篝火が焚かれて回りを明るく照らす。
「鷲見弥平治、別府四郎の両名を逃がすな!生死は問わぬ!」
斎藤内蔵助が兵に命じている。
「一兵たりとも逃がすな!降伏した者は武器を取り上げ一ヶ所に集めよ!鷲見、別府両名を見つけるまで決して外へ出すな!」
谷野大膳も負けずに声を張る。
俺は寺の掃討を家臣に任せて出入口を封鎖する。
暫くすると、
「鷲見弥平治が首、稲田次郎兵衛が討ち取ったり!」
と声が響く。
次郎兵衛が討ち取ったのか。
いつも俺の側に居すぎて、手柄が全然無かったので、まあ良かったな。
小姓上がりだからとか、陰口を叩かれずに済むな。
残る別府弾正忠は誰が討ち取るだろうか。
すると、一団が強引に此方を突破しようと突っ込んでくるのが見える。
「傳兵衛様!」
護衛をしている岸新右衛門が注意を呼び掛けてくる。
慌てた様に今回が初陣となる乾作兵衛の次男である七郎左衛門も寄ってくる。
「手柄は皆に任せる積もりであったが、向こうが我等に討たれたいと言うならば是非もない。新右衛門、七郎左衛門、存分に武功を立てよ!」
そう言い捨てると一番に槍を取り、偉そうな奴に目星を付けて突っ込む。
敵兵は此方を倒そうとしているのではなく、外へ逃げようとしているので、俺に槍を向ける暇があるなら、すり抜けようとするだろうし、危険は少ないだろう。
さっさと頭を潰しておけば、より安全に対処できる。
敵将は、此方が出口を固めて迎え撃つとでも思ったのか、反応が鈍い。
反応が遅れれば、年齢以上の筋力と突きの正確さに定評のある俺にとって絶好の獲物となる。
素早く敵の首を突き、相手を地面に叩きつけ止めをさす。
周りを見ると、遅れずに付いてきた新右衛門は、すでに二人目に打ち掛かっている。
七郎左衛門は殺り合っている最中だが、敵の士気が低く、無事に初陣で手柄を挙げられそうだ。
後は、任せても大丈夫だな。
家臣に手柄を挙げさせるのも主君の務めだ。
決して調子に乗って討ち死にしたくないからではない…
「別府四郎に間違い御座いませぬ」
戦が終わり、専賢に首の検分を頼むと、俺が討ち取ったのは別府四郎に間違いないと言われた。
本当は活躍する気など無かったのだが、首謀者の一人を討ち取ってしまった。
まあ、これで次の畑佐の戦いでは、後方にいても文句は言われないだろうし、これはこれで良しとしよう。
前座はこれで終わりかな…さて、畑佐での戦は、どうなるかな?




