100 郡上郡へ
美濃の攻略が早くなっているので、少し心配なことがある。
各務元正の仕官なのだが、史実では稲葉山城落城後だとは思うのだが、万が一にも他家に取られるのは嫌なので、親父の家臣である近松新五左衛門に紹介してもらおう。
本当は俺の家臣に欲しいところだが、森家の将来を考えると、親父の家臣にしておかないと物凄く怖い。
考え過ぎかもしれないが、林の爺さんと各務元正のいない森家というのが想像できないし、森家全滅エンドもありそうで怖い。
なるべく親父の家臣には手を付けずに、独自の家臣団を形成したい。
でも欲しい…各務元正…
後ろ髪を引かれる思いだが、親父に召し抱えるように確りと進言しておく。
あと以前勧誘した武将で、青木加賀右衛門重直を森家の家臣とすることが出来、鏡島城の石川杢兵衛光信も三男の伊賀守光重を送り込んできた。
そんな美濃の武将の取り込みが進む中、俺は苅安城の遠藤六郎左衛門盛枝殿の援軍に来ていた。
一応いつでも稲葉山城攻めが出来るように、蓮台の留守を山田八郎右衛門、奥田三右衛門、堀尾茂助らと、与力の前野将右衛門、生駒八右衛門等に任せ、他に大島鵜八には別命を与えて待機させてある。
茜部の堀掃部大夫殿、奥田七郎五郎殿や松倉城の坪内玄蕃殿、喜太郎殿にも、西美濃三人衆が人質を出す話があったら、直ぐに織田軍が渡河出来るように準備を頼んでおいた。
ないとは思うが、俺のいない間に稲葉山城攻めが行われても大丈夫だろう。
「傳兵衛殿、この度の合力、真に忝なく」
六郎左衛門殿が頭を下げて感謝してくる。
俺より二歳上なだけで大変な境遇、心中御察し致します。
俺ならどうしているだろうか?
「郡上郡は飛騨、越前への門。美濃の平穏のためには、ここを治める六郎左衛門殿の力が必須にて、遠慮なく利用されるがよろしいかと」
と、冗談混じりに返す。
この郡上郡は、飛騨、越前への通り道になっている。
一向衆に悩む越前はともかく、飛騨からのチョッカイはよくある事なので、万が一にも軍勢を他郡へ通す訳にはいかない。
そのために、ここを治める遠藤氏には、しっかりと織田家の門番としての自覚と力を持ってもらわないと。
まあ、今回はすぐに終わるだろう。
史実では、長井隼人の援軍が来ると、相手の遠藤大隅守胤俊と六郎左衛門殿は和睦しているからね。
「六郎左衛門様、傳兵衛様、大隅守殿より使者の新兵衛殿が参りられました」
ほら来た!もう終わりかな?稲葉山攻めに間に合うかな?
「六郎左衛門殿、お久しゅう御座います。森傳兵衛殿には、お初に御目にかかります。
某、遠藤大隅守が次弟、新兵衛と申します」
若いな~。確か十八歳だったか。
俺が十四、六郎左衛門殿が十六、新兵衛殿が十八、大隅守が二十。
二歳ずつ上がっていって覚えやすい。
覚える必要は、ほとんどないが…
「して新兵衛殿、此度は何用で参られた?」
六郎左衛門殿が少し険のある声で問いかける。
まあ、今までの事を考えれば仕方ない。
新兵衛殿も緊張しているのが見て取れる。
皆若いからね。
「我等は六郎左衛門殿との和睦を望んでおります」
「和睦だと?」
「はっ、六郎左衛門殿に元通り、郡上郡の半分をお返し致します」
時期も違うし、長井軍が森軍に変わっているが、そこは変化なしなのか…楽でいいけど。
あとは、六郎左衛門殿の心情次第なのかな?
「領地を元通り返して頂けると?」
訝しげに聞き返す、六郎左衛門殿。
「無論に御座います。元々、年若い六郎左衛門殿では、東氏の旧臣や飛騨からの干渉を抑えきれぬとみて、止むを得ず接収したまでに御座います。織田家の後ろ楯を得られた六郎左衛門殿ならば、何の不安も御座いませぬ」
いや、お前ら、六郎左衛門殿に暗殺を試みているからな!
自分の領地にする気満々だったからな!
「我が領地を、お返し頂けるならば、和睦を受け入れましょう」
六郎左衛門殿も領地が戻れば問題はないのだろう。
無事に纏まったようだ。
願い通り史実とあまり変わりなく事が終わってよかった。
新兵衛殿もホッとしただろうと顔を見ると、まだ緊張は解けていない。
まだ何があったかな?
「森家の方々も、御足労申し訳ない。此度の費用は我等の方で用意させて頂きます」
ん?何故、大隅守側が出すのかな?嫌な予感がするぞ。
「坂本か畑佐か…我等の領地からの割譲を考えております」
何もしていないのに土地をくれるとか、おかしすぎるやろ…
てか、あまり詳しくはないが、坂本とか畑佐とか飛騨の近くだったような…




