99 京への伝手
見事に親の仇を討った加木屋久蔵正次。
当然だが斎藤正義の子だと、皆にバレてしまった。
殿の直臣へという話もあったのだが、仇討ちの恩を返す為に俺の家臣で居続けると、その話を拒否してしまった。
なんという忠臣、もったいない。
仕方ない、せめて親父の家臣になってもらって、与力として仕えてもらおう。
そっちの方がまだ外聞はいいよね?
久蔵には、その血筋を使って外交面でも活躍して欲しいから、森家家臣よりも織田家家臣の方が通りがいいのだが…しゃ~ないな~。
久蔵は今回の活躍で、俺が親父に返上した顔戸城を与えられている。
今までよりも、かなり収入アップしているな!
そして、そこから幾分かを久蔵の父親の実家である近衞家に送ってみるというのはどうかと、親父に提案してみる。
久蔵の父である斎藤正義は近衞家の庶子で、関白の近衞前久の兄に当たる。
もっとも庶子なので、近衞家とは関係ないといえば関係ない。
だが、将軍足利義輝が殺害されて、情勢が不安定な中、この縁を切るか結ぶか、どちらを選ぶだろうか。
まだ次期将軍がどうなるのか分からない今ならば、取り敢えず結んでみるんじゃないかな?
切るのは動きがあってからでも大丈夫だろうし。
「という事で、もし京の公家や幕臣との伝手が必要ならは、何時でも言ってください」
親父に京への伝手をアピールしておく。
殿の上洛が少しでも楽になればいい。
加木屋久蔵ばかりではない。
斎藤内蔵助利三の兄は幕臣の石谷頼辰、妹の夫は同じく幕臣の蜷川新右衛門(某とんち小僧アニメに出てくる人の子孫)、異父妹は長宗我部元親に嫁いでいる。
平野右京進長治の甥(兄の子)は明経博士の清原枝賢、その娘は正親町天皇の後宮女房を勤める伊予局、次兄は唯一神道の吉田兼右、妹の子は細川藤孝。
平井宮内卿は…年代的に一世代前かな…伝手は残っているだろうか…
こうしてみると、朝廷より幕府の方が多いな。
だが、なかなか使えるのではないだろうか?
「傳兵衛、お主、その様な素性の者達ばかりを召し抱えておるのではなかろうな?」
親父が呆れたような目をしているが、他は兎も角、右京進は俺がスカウトした訳ではないからね。
「右京進を紹介したのは津島の大橋清兵衛殿に御座います。清兵衛殿に紹介するよう頼まれたのは父上で御座いましょう。某の関するところでは御座いませぬ」
自分のやった事を、俺のせいにするのは良くないと思います!
あと、斎藤内蔵助と平井宮内卿は、稲葉家や斎藤家に渡したくなかったという理由の方が大きいし、久蔵については…堀権之助殿がスカウトしてきただけって事になってるから、俺のせいじゃないもんね。




