第32話 ルービア盗賊団
あの自演作戦の失敗後、ダイスはこう考えた。
『ニセの盗賊が通用しなかったのなら、本物を雇えばいい』
と。
そこで彼はロッド地方を離れた後、帝都にひそむ『ルービア盗賊団』のアジトへと足を運ぶのであった。
「ぁあ? バイローム地方だと?」
「聞いたことねえな」
ルービア盗賊団は世界を股にかける札付きの国際的盗賊団である。
どいつもこいつも脛に10や20の傷を持った悪党で、見ただけで赤ん坊が泣きだすようなツラをしていた。
「しかもよお。あんたの話は到底信じられねえんだよ」
「そうだそうだ。この間まで荒野だった地域が、急にそんなオイシイ街になっているなんてよ」
「ほ、本当なんです。あの砦を奪えばおそらく巨万の富が手に入るでしょう。どうか信じて……襲撃の方、引き受けてください」
ダイスは強面の盗賊たちの前で必死に訴える。
相手は盗賊。
一歩間違えれば逆にどんな目に遭うかわからない。
と言うか、雰囲気的にはもはやボコられそうな情勢である。
「よお、面白そうな話してんじゃねえか」
しかし、そんな時。
ひときわ巨大な体躯を持った男がのそりと奥から出て来て場のムードが変わった。
「親分!」
「帰っていたんスか?」
鋼のような筋肉に無数の生キズ。
オークのような醜悪なツラ構え。
そう。
この男こそルービア盗賊団の親玉、ルービアである。
「ルービア様! お久しぶりでございます!!」
ダイスはここぞとばかりにルービアへ“仕事”を引き受けるよう請願した。
「かくかくしかじかでして……何とぞ、前向きにご検討ください」
「ううむ。面白そうだな」
「親分!?」
「こんな野郎の言うことを信じるんですか?」
「クックック、そう言うもんじゃねえ。悪くねえ話じゃねえか」
子分たちとは対照的に親玉は乗り気のようだ。
「それにお前らは気にならねえのか? その恐ろしく強え美女っていうのがよ。ジュルルル……」
ルービアは涎を垂らしながらそうつぶやく。
「やれやれ、親分の例のがまた始まったよ(小声)」
「あの顔で女には目がねえんだもんなぁ(小声)」
これには子分たちも顔を見合わせて苦笑いした。
「ぁあああ? なんだ??」
「あ! い、いや……」
「なんでもねえです(汗)」
ルービア盗賊団は首領ルービアのワンマン・チーム。
どっちみち彼に逆らえる者はいなかった。
ルービアはフフッと笑むと、ダイスの方へ目をやり言った。
「だがオレたちは生粋のあらくれ者だからよ。わざとやられるなんて、そんなマネはできねえぜ?」
「ふっふっふ、理解しております。砦を占領したら、女ともどもルービア様のものとしてかまいません」
ダイスはもはやロッド地方の文官に戻る気はなかった。
バイローム地方の開発を台無しにして、あの気に食わないシェイド・コルクハットを追い落とす。
彼の頭はもうそれだけしかなかったのだ。
「それから報酬の方だが、先払いにしてもらいたい」
「先払い、ですか」
さらにルービアは約束した報酬の先払いも要求してきた。
報酬だけ受け取って実行には移さないという可能性もあったので後払いにしておきたいところだったが、考えてみるとこの報酬は先払いにしておいた方が彼らの襲撃力UPにもなる。
「わかりました。それではブツはここに」
そう言ってダイスは鞄を開けて机の上へひっくりかえした。
すると、そこには光り輝く鉱石。
世にも貴重な『パワーストーン』が音を立てて転がるのであった。
◇ ◆ ◇
第一の拠点では人口の流入と共に狩猟部隊の数も増えていた。
現在、領地全体の総人口は500人。
そのうち、狩猟部隊は200名に達している。
日々の肉の確保は十全に行われていたし、これだけの戦力があれば外からの襲撃にもそこそこ備えられていると言えよう。
「でも、油断は禁物ね。どんな強敵があらわれるかわからないもの」
セーラはそんなふうにつぶやき、今日もレベル上げにいそしむ領民たちを指導しに行った。
モンスターハウスに来るといつものように弓や剣の扱い方から、モンスターについての知識などを順々に教えていく。
「あら?」
そんな時。
「えい! やあ!」
「とお!!」
モンスターハウスの一画に、ひときわ大きな声を出している7人ほどの少年たちを見つける。
「ずいぶん可愛らしい子たちが修行をしているのね……」
「えっ?」
「……あ!」
「セーラ様だ!!」
後ろから声をかけると、少年たちはみんなピーンと背筋を伸ばし、セーラへ向かって敬礼した。
「子供には職が与えられないはずだけれど?」
そう。
シェイドの『子供は遊ぶのが仕事』という方針で、子供には職が与えられないはずだった。
「それは……」
「その、僕らがお願いして特別に配置してもらったんです」
「お願いして?」
遊んでいてよいと言われている子供たちが、あえて職につこうとするものだろうか?
セーラは首をかしげるが、子供たちはキラキラした瞳で答える。
「はい!」
「僕たちセーラ様みたいに強くなりたいんです」
「それでこの領地を守るんだ」
「そうです!」
本当だろうか?
念のために周りの大人たちに確認してみると、確かに少年たちは志願して狩猟部隊に来ているらしい。
「男の子ってのは生来、強くなりたいって思うもんでね」
「そうそう。この国じゃなかなかそうはいかねえんで、子供が狩猟部隊に憧れるのも当然でしょう」
大人たちは口々にそう言う。
「そう……」
セーラは胸の前で手を重ねて少し物思いに耽ったが、しばらくするとこう口を開いた。
「わかったわ。その代わりキミたちは私が徹底的に鍛えてあげる」
「セーラ様が!?」
「ええ。私のシゴキは厳しいわよ。いいわね?」
「「「よろしくお願いします!!」」」
少年たちは頬をリンゴのように真っ赤にして元気よく返事した。
(この子たちのためにも、今は私がこの街を守るのよ)
セーラは一方でそんな決意を固くする。
だが……
この第一の拠点には、彼女の戦闘力をすら凌駕する脅威が刻々と迫っているのであった。




