Ep-723 魔界の中の楽園
「はぁ~....」
私は、やたら綺麗に造形された浴槽に身を浸からせ、息を吐いた。
こんな悪夢みたいな場所でも、お風呂にはしっかり入れる。
ハルファスがいるお陰だ。
お湯は魔法使いなら誰でも作れるし、この場でそれが出来ないのはコルとシロだけだ。
...いや、グゥグゥガから教えを受けたらしいコルなら、狐火でお湯を沸かすくらいはできるのかな?
「にしても、ちょっと広すぎるような...」
ハルファスは魔術で身体を洗うので、お風呂には入らないそうだから、シロを入れることを想定した大きさなのだろうか?
まあいいや。
私は暫し沈黙する。
『なぁ、人間ってよぉ』
「わあっ!?」
背後から話しかけられて、私は首だけで振り返る。
そこには、壁を突き抜けてこちらを見ているユニコーン...バーンが居た。
「ちょ、ちょっと...」
『人間ってなんで水に浸かるのが好きなんだ?』
「...体が汚れるからだよ、お湯に入って、脂で作った石鹸で汚れを浮かせて落とすの」
『成程なぁ』
「バーンは契約して地上に出たことあるでしょ? だったら、お風呂くらい見たことあるんじゃないの?」
『前の契約者は水に入らなかったぜ』
「うわっ...」
まあ、悪魔崇拝者ならそういうこともあるか。
私は見たことないけれど、噂とかだと浄水に浸からないとかはよく聞く。
「ところで、バーンって性別はあるの?」
『人間どもの雌雄の違いか? 俺はないぜ! 悪魔は雄でも雌でも、望むように変われるからな!』
「そうなんだ...人型にはなれるの?」
『主人のあんたが望みさえすりゃな』
「へぇ〜...」
それなら、ちょっと頼み事をしてみようかな。
普段はコルか護兵にやらせてるんだけど...
「じゃあさ、私今から出るから、背中洗ってくれない?」
『おうよ! 任せな!』
私はお湯から身体を出し、風呂場の椅子にお湯をかけて腰掛けた。
そして、バーンが姿を変えるのを観察する。
体が霧状に変わって、直後、赤い髪の美女に変身した。
...私より胸あるんだけど?
『どうよ!』
「すごく良いと思う、うん」
『じゃあ、洗ってやるよ。貸しな、石鹸』
「ありがとう」
私はバーンに石鹸を渡して、後を任せるのだった。
一時間後。
私は再びユニコーンに戻ったバーンと別れ、一番上にある寝室に向かった。
睡眠を必要としないゼパルとダンタリアンが守る、この世界で一番安全な寝床だ。
「ベル、眠れそう?」
「うん」
魔王魔力と切り離された状態になると、私もベルと同じ気持ちになれる。
私はあくまで人間で、その体に蓄えられる魔力には限度がある。
それは魔族のように無尽蔵ではなく、ちょっと戦闘するとすぐ疲れる。
「まだ魔王魔力にはアクセスできない感じ?」
「うん.....魂は合致するみたいだけど、何かが足りないってダンタリアンが言ってたわ....」
「そっか....」
魔王の魔力の宝物殿とも言える、魔王魔力。
それにさえアクセス出来れば、使える魔術の幅が大きく広がる。
「ねえ、ユカリ....」
「どうしたの?」
私は、入り口近くにいる魔王たちに「出てけ」と目で合図する。
彼等も察してくれたらしくて、部屋から出て行った。
「ユカリは凄いよね、ほんとに....」
「そうかな?」
異世界から来て、OSOの能力を得て、神と契約して、その内魔王の力も得て、最後には神になって。
ただそれだけで、凄い要素は特にない。
....謙遜も過ぎれば厭味か。
「.....いや、凄いね。私は凄いかも」
「ふふ.....急に撤回するのね」
「過ぎた謙遜は厭味、でしょ?」
「そうかしら....?」
それよりも、私はベルが何を言いたかったが気になった。
「ベル、何を言おうとしたの?」
「......ユカリはさ、どうして頑張れるの?」
「?」
私はベルの言わんとする事がよく分からなかった。
それ故に、頭の上で疑問符を浮かべた。
「ユカリを見てると、不思議になるのよ。人に対して見栄を張るわけでもないし、誰かが好きなわけでもないし、この国が好きなわけじゃないし、正義を盾にするわけでもないでしょ?」
「うーん......それはさ、ベル」
私はいい例えを思いつくまで、少しだけ黙る。
ベルはそれを待ってくれていた。
「.....ベルって、遺跡探索が大好きだよね」
「ええ」
「私はいつも、自分のやりたい事しかやらないよ。それがどんなに危ない事でも、好きな事だからしょうがないじゃん」
「...それって、どんなに辛いことがあっても、好きでいられる?」
「うん」
ベルこそ、遺跡探索でどんなに酷い目にあっても止まらないと思う。
それこそ、仲間が死なない限り。
でも私は、仲間が死んだくらいじゃ止まれない。
進まないと、何も良くならない。
「...それに、私に力があるって言ったのはベルでしょ? 力がある人間は、立ち止まっちゃダメなんだ」
「...そう、なんだ」
でも、完全に足を止めなければ、足を止めて悲しんだり、周囲を見渡して、方向を変える時間はある。
「やっぱりユカリって、変な人よね」
「へ、変かな...」
「うん、変よ!」
私は灯を消し、ベルと話しながら、その内眠った。
そして静かに夜は更けていくのだった。
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