Ep-722 歪んだ木陰で
「ここが....一層?」
私達は、昇降機を使って零層から上がってきた。
その先は――――滅茶苦茶暗い森の中だった。
光源はあるんだろうけれど、光を吸うような葉っぱが幾重にも積み重なっているせいで殆ど届いていない。
夜の暗さじゃないけれど、昼間の明るさでもない。
そんな森の中だった。
『周辺に悪魔の気配はねーな』
『そろそろ休まねーか?』
「うん、そうしようか.....ベル、どうする?」
「私もうヘトヘト......休もう、ユカリ」
この場にはイエスマンしかいない。.....ベルを除けば。
だから私は、決定を他者に委ねるときベルを頼る。
「ハルファス、ここに城を建てられる?」
「可能です、ただし......魔力の濃度が高いので、撤去は出来ませんが」
「大丈夫。残しておこう」
どうせ簡易拠点だし、勝手に使われても構わない。
私たちはそこを拠点にすることを決め、ハルファスが魔術で築城する間、周囲を見て回ることにした。
「食べ物とかあるのかな...」
「あっても食べない方がいいと思う...」
そうか、確かに。
黄泉竈食ひみたいな事もあるかもしれないし、ここに生えているものを食べるのは危なそうだ。
それに、毒以外の効果があったらやばいしね。
「ライト」
ベルが光源を出して、周囲を明るく照らす。
私はそれを危険視して、ベルの肩を叩く。
「どうしたの?」
「光はダメだよ、何かを呼び寄せるかも」
「そうね...それなら、どうすればいいかしら」
「〈魔猫の瞳〉」
私はベルに魔術をかけて、周囲を見えるようにした。
ちなみに、ベルとシロ以外の全員は、何らかの手段で周囲を見ることが出来る。
「きゃっ!?」
「ここには風があるんだなあ...」
その時、林間を風が吹き抜けた。
嫌な臭いのする風だけど、ここには風があるようだ。
湿気はなく、カラッと乾燥している。
「ねえ、ここの樹齢とか分かるかな」
「切ってくれたら分かるかも」
「了解」
私は黒龍刀を抜き、生えていた低木の一本を斬った。
裂け目からベルが覗き込み、短い悲鳴を上げた。
「どうしたの!?」
「ユ...ユカリ、見てこれ」
私は切り株を覗き込む。
...年輪は無かった。
ただ、白い断面があるだけだった。
他の木も斬ってみたけれど、年輪は一切無かった。
樹液のようなものもなく、
まるで、死んでいるように佇んでいる。
「怖いね...」
「うん」
「ユカリ様」
その時、後ろをついてきていたゼパルが発言する。
私はゼパルの方を向いた。
「どうしたの?」
「この木、恐らく悪魔です」
「えっ?」
この木が悪魔な訳...そう思った私だったけれど、違和感に気づいた。
さっき斬った木が無い。
まるで何事も無かったかのように、森が勝手に元に戻っている。
「...成程、悪魔がいないわけだね」
『植物に受肉するとか、何考えてるんだ?』
『バカだなー』
バーンとゴッツが口々にそう言う。
確かに、何を考えて植物に受肉したんだろう...
「ダンタリアンとハルファスが心配だし、一回戻ろうか」
「そうね」
あの二人がどうにかなるとは思えないけれど、一応ね。
私達は来た道を引き返す。
木が勝手に元に戻る以上、目印は無駄になる。
魔力のない人間は、本当にこの世界では生きていけないのだと、よく分かる。
不気味に歪んだ林間を戻り、そして...
「わあ...」
「こんなにしろとは言ってないんだけど...」
昇降機の少し離れた場所に、魔王城みたいなのが建っていた。
私たちは呆れつつも、正門の方へ回るのだった。
中に入った私達は、まずご飯にする事にした。
ほぼ休憩なしで零層を横断したので、少なくとも生身の私とベル、ハルファスとコルとシロはお腹が減っているはずだ。
私は大きなテーブルをアイテムボックスから取り出して、皆の前に置く。
椅子は地面から生える形で固定されてるから、後は料理を出すだけだ。
「へぇ~っ、凄いね」
「どんどん食べてって。ここの皆で食べても五年分くらいあるよ」
私がそんなに食べないのを知ってか知らずか、魔物たちからの三食分お弁当セットが層ごとに届くせいで、とんでもない勢いで増えていく。
ちゃんと汁物もある。
「ところで、ダンタリアンとゼパルは食事って出来るの?」
『不可能です』
「無理ですな」
だよね。
ダンタリアンは魔力体に過ぎないし、ゼパルは魔導人形に憑依しているだけだ。
私は皆の分のお皿も出して、食事を始める。
シロにも、汁物とお肉に分けてお皿を用意して地面に置いた。
「食べていいよ」
「ワォン!」
汁物は、ウィンナーとかジャガイモがゴロゴロ入ってて美味しい。
私はスープを飲んでから、ベルが取り分けてくれた料理を食べる。
「いつもこんなにおいしいの食べてるの!?」
「いつもじゃないかな....」
私はちょっと気まずく感じていた。
そうだよね.....ベルたちが前線で頑張ってるのに、私は.....
「ごめんね、ベルたちが頑張ってるのに」
「でも、風の噂で流れてくるよ。ユカリが凄い事してるって。......私達はほら、自分にできる事しかできないのよ。....でもユカリなら、あなたが出来ること以上の事が出来るでしょう? 適材適所ってやつよ!」
「.....ありがとう」
正直、そういう答えが欲しかった所もある。
どうせこの件が解決したら私は王都に戻るんだけどね。
それでも、ベルの言った通りだと思う。
私は今、平和な(?)国内でのうのうと冒険してて、前線で戦う皆とは比べ物にならないくらい心安らかに暮らしている。
でも、他の皆にない、権力が私にはある。
だからこそ、私はジルの政権と伯爵たちの不仲を何とかして、前線の皆に楽をさせてあげないといけない。
「あ.....」
気付いたら、ご飯はなくなっていた。
コルとハルファスがガツガツいったからだろう。
「....足りないよね?」
「は、はい」
コルはそうらしい。
ハルファスは静かに首を振った。
私はコルにお弁当箱を三つ出して渡した。
「....いいのですか!?」
「コルは進化するエネルギーが必要でしょ、どんどん食べて」
現在のコルは、私の魂とのリンクから力を引き出して進化しているだけだ。
だから、大人の形態に常時なるためには自力で進化しないといけない。
そのためのエネルギーは、食事で蓄えるほかないと思うから.....
「ハルファス、お風呂とかはある?」
「そう言われると思い、浴槽だけご用意させていただきました」
流石ハルファス、話が分かる。
私は皆の食器を片付けて、お風呂に向かうのだった。
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