Ep-719 出発
「ふー」
話が終わり外に出た私は、肺にたまった悪い空気を吐き出すようにため息をついた。
緊張したけど、エルドルム伯爵は昔からうちのお母さんと仲の良かった人で、避難者の受け入れと、ジルに対しての説明を快諾してくれた。
「というわけで、行くよ皆」
「ああ!」
「俺たちが行ってもいいのか?」
「....正直、よく分からないんだよね」
今私たちは、「幾何学模様が発生している地点」にいる。
正直、さっき一人で境界面を通ろうとしたら弾かれたので、ここからしか入れないっぽい。
「上に昇降機みたいな遺跡があるらしくて、契約した悪魔がそれを起動してくれるのを待ってるんだよ」
「情報量が多いな....」
「だよね....」
その時、その場に何かが割れるような音が響いた。
慌てて上を見上げると、円筒形の何かが降りてきていた。
『持ってきたぜー』
「ありがとう!」
私は三人に向き直る。
「魔界は悪魔を封じ込めるための世界らしいんだけど、こうやって人間と契約してる悪魔なら、昇降機で行き来できるんだって」
「成程....だが、俺たちは行っても大丈夫なのか?」
『問題ないぜぇ?』
『まあ、未契約の人間なんて絶好のエサだがなあ、ヒャハハ!!』
危ないのは間違いないみたいだ。
「一方通行じゃないみたいだし、とりあえず行ってみよっか!」
「...ああ」
「楽しみだな!」
流石に今回は、セインは置いていく。
完全な非戦闘員を連れていく暇はないし。
「コル、シロ、こっち来て」
「はい!」
「ワン!」
私はコルとシロを伴い、リュートとジェラルディンと一緒に昇降機の中に入った。
中に入るとボロボロの内装が少し気になったけど、特に問題はないみたい。
「.....これって、古代魔族語....?」
エレベーターの内部には、色々な文字が彫ってあった。
ただ、
『悪魔従えし者......を......し(あとは完全に潰れている)』
『..........に........服されし........ために..........』
とか、半分以上主語が潰れてて解読できない。
そうしているうちに、足元の魔法陣が起動して、昇降機が上に向かって登り始めた。
魔術.....しかも、これは魔族式じゃなくて、古代武器とかによく見られる人間式の魔術形式だ。
つまり、これを作ったのは人間?
「お、おい! 境界面を越えるぜ!」
「....!」
昇降機の中に私達は閉じ込められているから、もし弾かれたら圧死する。
戦々恐々としながら、境界面を通過して――――――――
一瞬で、私たちは別世界へと浮上してきていた。
ただ、昇降機の窓から見る限り....外は、水?
「やっと着いた.....」
扉が開くと、そこは完全にヤバい場所だった。
台座は赤い水に浸っていて、屋根はない。
でも、空はまた赤い幾何学模様の走るアレで、どこからか目に悪い赤色の光が差している。
おまけに、魔力密度が凄い。
こんな所にいたら....
「ガフッ.....」
「リュート!」
リュートもジェラルディンも、どちらも血を吐いていた。
私は急いで、バーンとゴッツに言う。
「戻して!」
『あ、ああ!』
『おう!』
私は昇降機を起動させて、現世に戻った。
落ち着いてきた二人を介抱しつつ、私は全員に説明する。
「向こう、すっごい魔力が濃い.....多分だけど、魔法が使える人じゃないとまともに生きられないと思う」
アラドと同じ症状だ。
魔力を持っているだけじゃダメで、魔法を使うように周囲の魔力に適応しないとああなる。
アラドも、魔剣ダインスレイヴ? だっけ、アレに出会うまでは、魔力暴走が原因で死にかけていた。
アラドの末期症状を常に味わわされると思えば、多分魔法の使えない人はあっちで普通に動く事も出来ないはず。
「.......仕方ない、俺たちは留守番だな...」
「だけどよ、もう少し連れて行った方がよくねえか?」
「うーん....そうだよね」
準備は出来てるけれど、コルとシロだけだと、失礼だけど......ちょっと心許ない。
「恐れながら....ユカリ様」
「どうしたの?」
「魔王様たちを、お連れになられては?」
「...それ、名案」
今、味方陣営に居るのはダンタリアン、アムドゥスキア(ベル)、プロメテウス(アイ)、ゼパル、ハルファス。
このうち、連絡がつきそうなのはダンタリアンとベル、ゼパルとハルファスだね。
あの二人は.......今すぐ呼ぶにしてもって感じだし、この場合後者を選ぶべきだろう。
プロメテウスはそもそもどこにいるのかもわからないし連絡も出来ないから、ゼパルとハルファスを呼ぼう。
「......用事の最中じゃなければいいんだけど。〈魔皇之王喚〉」
「――――どうされましたか、ユカリ様」
「――――私に何か、御用でしょうか」
私はやって来た二人に、魔界に行く事を伝え、その性質と、仲間の人数が欲しいという事を伝える。
「では、ダンタリアンめもお呼びになった方がよいのでは?」
「......迷惑じゃないかな」
「他でもないあなた様に呼ばれているのに、何を迷惑がる事があるのでしょう」
あ~.....これだからハルファスは。
と思ったけど、そういえばハルファスはダンタリアンが一時期、私を魔皇として扱っていない時期があった事を知らない。
忠誠は誓ってくれてるけれど、ダンタリアンの忠誠には疑問符がつく。
絶対、裏で何か不満持ってるよ...
「それに、通信魔術が届かないから無理だよ」
皆は今、諸国との戦いに身を投じている。
私が頑張って作った通信魔術のネットワーク範囲外だ。
「それは.....その、ル...ユカリ様、僭越ながら申し上げますが、〈魔皇之勅令〉は使われないのですか?」
「え? 何それ?」
「え?」
固まる私。
エディクト....エディクト.....本当に知らない名前だ。
「.....ルシファー様が生前お使いになられていた魔術です、術式は複製を持っておりますが、もし何らかの理由でお使いになられていないのなら.....」
「ううん、欲しいかも。忘れてるから....」
私はハルファスから術式を受け取り、数分かけて読み解いて使えるようにする。
ブラックボックス化している所を除去して、私専用の魔術に。
「〈魔皇之指令〉!」
私は術式を起動して、ダンタリアン達に呼び掛ける。
すぐに彼は出た。
『これは.......エディクト....ですか、ユカリ様』
「ううん、劣化版だよ...それより、これからなんか別世界に行くんだけど....」
私は、魔界に行く事。
その中では魔力がない存在は長く生きられない事、戦力が欲しい事、暇ならベルと一緒に来てほしいと伝える。
移動手段は無いけど、〈魔皇之王喚〉で同行者設定をすればベルごと呼べる。
帰り道はそこそこあるけど.....
『理解した、私めも向かわせていただきましょう』
「ベルの許可を取ってからだよ」
『大丈夫だよ、ユカリ! こっちはちょっと落ち着いたし、当分は王国軍が抑えてくれるから!』
「それなら.....いいのかな」
『最近全然会ってなかったし、旅行みたいなものでしょ! それに、遺跡もあるんでしょっ!?』
「あるある.....」
『じゃあ決まり! 行くわ!』
「.....うん」
こうして、ダンタリアン、ベルの参戦も決定した。
魔界旅行一行の面々は、
私、ダンタリアン、ベル、ゼパル、ハルファス、コル、シロの六人と一匹。
過剰戦力っぽいけど.......まあ、頑張るしかないよね。
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