Ep-717 エルドルムへ
次回から帝国編の更新を再開します!
「じゃあ、またな」
「身体に気を付けてね、ユカリ」
「うん」
私は二人に別れを告げると、桟橋から魔導飛行船に乗り移った。
待ってくれていた係員が魔導飛行船のワイヤーを取り外し、魔導飛行船後部の魔導推進器が火を噴き始める。
勿論あれは火に見えるだけの魔法粒子なんだけど....ね。
『では、これより王都行き飛行船は出発いたします! 快適な空の旅をお楽しみください!』
魔導飛行船が飛び立つ。
それと同時に、推進兼安定用のオールが側面からそれぞれ三つずつ突き出た。
これ以上見るべきもないので、私はキャビンの中に入る。
「もういいのか?」
「うん」
別れは済ませた。
未練はないし、そもそも結婚式を開くならお父さんたちも来るはずだ。
飛行船は高度を上げ、雲の上へと出る。
「これからどうする?」
「とりあえず客室に行こうぜ」
ジェラルディンのいう通りなので、私たちはそれぞれの船室に向かう。
私たちの荷物は、再び小さくなってしまったコルとシロが運んでくれている。
コルの進化は一時的なもので、彼の中の所謂進化のためのエネルギーがない状態だと、元の小さい姿に戻ってしまうようなのだ。
でも、別にその状態でも私たちの少ない荷物を持つくらいはできる。
「そこそこしたね」
「王妃になるんだから細けぇ事は気にすんなよな」
私の船室、コル、シロ、クーシー用の使用人室、リュートとジェラルディン、アルセイン用の船室を確保したので、そこそこお金がかかった。
三人用の船室はリュートが奢ってくれたけど、正直貴族用の船室は目を見張るお値段だ。
「まあ、それなりにいいお部屋なんだけどね」
魔導飛行船はここから二日かけて王都まで向かう。
だから、天蓋付きベッドからシャワーまで完備のこの部屋でも全然高くない。
「窓も豪華だけど...これ意味ある?」
部屋の内装は全て豪華で、私には縁遠いものだ。
まあ、それはそれとして......
「帰ったら結婚か....」
ポーズという建前じゃなくても、私はジルの事が好きだ。
だけど、好きってどういう感情だろう?
結婚したら初夜だよね?
どうしても、ジルをそういう目では見れないような....
下世話な話だけどね。
「でも、どっちにしろジルが離してくれないか....」
あれだけ出発を嫌がったんだし、そりゃそうだよね。
私はベッドに寝転がる。
思えば、ソルジャードレスVer.2.5を身に着けるのは久々だ。
フォーランドにいる間は、殆ど貴族用女性服を身に着けていたから。
「うーん、まあいいか」
とりあえず、前面にあるラウンジに行こう。
そこで朝食を買って、部屋に戻って食べればいい。
私はドアを開けて、外へと進み出る。
「ん?」
そこにはコルが立っていた。
彼のメイド服は私が新調したもので、進化によって伸び縮みする魔装具だ。
「お供いたします」
「ありがとう」
シロとクーシーは部屋に置き去りか。
仲良くしてればいいけど.....そう思いつつ、私は扉の鍵を施錠する。
ここは上級船室エリアなので、他者はめったに通らない。
廊下の端まで降りたら、螺旋階段で下まで行く。
そこからさらに前方向へと進み、扉を開けると、船の前面部に当たる大きなラウンジに出た。
人はあまりいないようで、私はそこにある売店でサンドイッチと紅茶を買う。
コルにも、肉入りビスケットと緑茶....ミルウェイ茶を買って渡す。
「い、いいのですか?」
「いいよ、部屋で食べよう」
私とコルは、一緒にラウンジを離れた。
夜になると、雲が多くなり下の光景は見えなくなった。
…それに、どんなに発展していても王国の国土の六割は未開の森林や山岳だ。
夜は真っ暗になって何も見えないだろう。
「........」
夕食はインベントリの中の料理で済ませた。
私は売店で購入した揚げ芋と、インベントリから取り出したジュースで夜食を取っていた。
太るのを気にする必要はない、ちゃんとフルで運動すれば消費しきれる。
「はぁ......」
憂鬱.....だけど、まぁ、いいと思う。
長らく王都を離れていたから、戻ったらまず学院に顔を出さないと。
それが終わったら、パーティーを開いて貴族たちに顔を見せて、次に.......
色々考えていた私は、気付くと揚げ芋が無くなっていたことに気づいた。
買いに行くのも面倒なので、私は窓際にある席に腰掛けた。
懐かしいな......昔はエルドルムから出航していて、私はこの船と同じ船かは分からないけれど、それでも一般船室で王都に旅立った。
その時は「俺」だったし、特に目的意識もなかった。
帰るために必要........だと思う「異界の呪文書」も、Sランクにならなければ手に入らない。
「よし」
考えるのはやめて、お風呂に入って寝よう。
私はそう考えて、立ち上がった。
服を脱ごうと、上着のボタンに手を掛けた。
「..........!?」
その時。
私は何かの気配を感じた。
違う、これは気配じゃない。
魔力だ。
「やばい!」
それを言葉に出したとき、既にすべては終わっていた。
魔導飛行船の船体がバラバラになって、私たちは雲海に放り出された。
ささささ、さて、どど、どうしよう!?
「.......仕方ない! 〈召喚:飛竜大隊〉!」
魔物の中でも、私の為に編成された二百体の飛竜。
それを召喚し、直ぐに全員に念話魔術で意思を伝える。
「『落ちている人間を助けろ』!」
『『『『『『『『『了解!!』』』』』』』』』
私は私で〈魔皇之翼〉を開いて飛翔し、皆を探す。
「皆、どこ!?」
叫んだその時、耳に聞き慣れない声が飛び込んできた。
『ヒヒヒ、仲間を探してるのか?』
『俺たちが探してやろうかい』
周囲を見渡すと、赤い光球が私の周囲を飛んでいた。
「何かは知らないけど、対価は高そうだね」
『ホントは魂を貰うんだけどな』
『あんたは魔神様のお気に入りだから許してやるよ~』
「ま、魔神!?」
ここでその単語を聞くとは思わなかった。
とにかく、助かる。
「助けてくれるの?」
『俺たちに名前をくれよ』
『そうしたら臨界出来るんだ』
「うーん......バーンとゴッツ!」
『バーン!』
『ゴッツ....いいねえ、行くぜ!』
その途端。
二つの光球は、それぞれ不気味な頭の鳥と、翼を生やした二本角の馬に変わった。
この姿を取るのは、精霊でも魔物でもない。
「悪魔.....?」
『おうよ、お仲間を探すぜ~』
『頑張るぞ~』
二体は一気に、船の残骸の中へと飛び込んでいった。
私はふと、上を見た。
空がおかしい。
雲の上は夜空ではなく、赤黒い空に幾何学模様が走っている。
「一体、何........?」
悪魔といい、この空といい......
私は、エルドルムに起きた異変に、不安を感じるのであった。
もう助からないゾ♡
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