Ep-714 魔を誅する天権
ユカリの放った一撃は、まるで地上に太陽が降臨したかのような凄まじい光を生み出しながら、魔族の浮遊要塞を吹き飛ばした。
古代の亀の魔物から作られた堅牢な構造材も、圧倒的な神聖力と魔力によって内部に浸透されたことで破壊され、その骨組みごとバラバラになっていく。
「くそっ、何で!?」
魔族たちは魔導障壁を張るが、そんなものが意味をなすわけが無い。
たちまち剥がれ落ち、その身体が聖力によって焼け爛れていく。
「ぎゃああああああああ!」
「痛い、熱い!」
「な、何故...!」
因果応報。
その言葉を知らぬまま、魔族達は一人、また一人と焼き尽くされて消えていく。
神魔力は、魔法に染み込み、内側から神聖力で破壊する。
如何なる魔法に対してもアドバンテージを持つ力なのだ。
魔導兵器の数々も、破壊された後に細かなカケラにまで分解されて、吹き飛んだ。
「ふー...」
翼を広げ、ユカリは額の汗をハンカチで拭う。
その眼前で、円盤型の要塞が地に墜ちていくのが見えた。
だが、それらが地表に到達する前に、神魔力によって分解され、消滅していく。
「大体終わりかな?」
そう思っていたユカリだったが、その想定は少しばかり甘かった。
空から落下してきたブラックルーンドラゴンが、ユカリの視界を塞ぐ。
「ブラックルーンドラゴン...!?」
「死ね、ユカリ! 偽りの主人よ!」
直後、空から風圧の塊が飛んでくる。
ユカリはすぐに神魔力で結界を構築し、それを防いだ。
そして、すかさずホロリンが降ってきて、ユカリに襲いかかる。
「〈神魔破弾〉!」
ユカリは急いで背後へと退き、神聖陣を描いて神魔力の弾を放つ。
だがホロリンは、人化によってそれを回避して、ユカリとの鍔迫り合いに持ち込んだ。
「死ねぇぇぇっ!!」
「まだまだ生きるよ、私は!」
一瞬、ユカリの膂力がホロリンを凌駕し、ユカリは剣ごとホロリンを押し返した。
同時にホロリンは察する。
ユカリはもう、自分を殺すべきではない対象として見ていないことに。
その目がいかに冷たく、無情であるかを。
「超位神聖魔術...」
「させるか!」
ユカリが魔法陣を構築し始めたのを見て、ホロリンは仕掛けるべき時と判断して突っ込む。
だがユカリは、複雑な魔法陣を描く傍ら別の魔法陣を準備していた。
「〈六皇護兵〉、〈天翔一踏〉」
ユカリの周囲に現れた六体の魔法人形が、足を輝かせて天を舞いホロリンに襲いかかる。
ホロリンはそれらを振り払おうとするが、まるで意思があるかのように護兵達はホロリンを抑え込む。
「離せ!」
「〈八雷神鎖〉」
直後、ユカリの魔術が放たれた。
空から降り注いだ七つの雷がホロリンの全身に縛り付き、最後に落ちた雷がホロリンの全身に凄まじい激痛を与えた。
「グ、グォオオオオオオオオ...」
人化が解け、ホロリンの巨体は空中に縛り付けられる。
それを見たユカリは、即座に追撃へと移る。
「海神の宝冠を戴く我が命じる、理よ我に首を垂れよ。悪しき魂を浄化し、乱心を清めたまえ! 〈天権・浄化之陽光〉」
輝いた光が、ホロリンを浄化する。
魔物である彼には聖力は致命傷になりうるものだが、それはホロリンの肉体ではなく精神を浄化する。
ユカリはこの期に及んでも、ホロリンを完全に殺してしまうのを躊躇ったのだ。
「これで、奴らの洗脳も...」
「解けたと、思ったか?」
直後。
拘束を振り解いたホロリンは人化し、ユカリの腹に拳を叩き込んだ。
「がっ...」
「洗脳などではない、我が意志までも穢そうとする。やはりお前は、偽りの主人よ!」
腹を殴られたユカリは上方向へ吹っ飛んだあと、魔術が切れたことで落下していく。
ホロリンはそれを、冷徹な目で見ていた。
「...」
落ちていくユカリは、静かに考えていた。
洗脳ではなくホロリンが本当に敵に恭順しているのならば、それは敵ということになる。
だが...心の奥で、ユカリはホロリンを殺したくないと考えていた。
「...卵の時から見てた子なんだから」
ホロリンはまだ一歳か、二歳程度なのだ。
ユカリが卵に名前を付け、暫くは会わなかったものの、その後仲間となった。
捨てられるはずが、なかった。
例え一瞬の関係だったとしても、その存在を殺せるはずがユカリにはなかった。
ただ、同時に。
「....私、そこまでの関係だったかな...」
ホロリンの親同然なのだから...そう考えた時、ユカリは気付いた。
ホロリンには本当に、親のように接していたのかと。
「考えてみれば、いつの間にか生まれて、いつの間にか育ってた....」
ユカリは合間合間にしか訪れておらず、絆を育む余地等なかった。
ユカリは常々、自分がダンジョンの強制力で魔物を縛る事を気にしていた。
彼らが忠誠を誓わざるを得ない状況を、何より嫌っていたのだ。
「.........何てひどい事をしたんだろう、私は...」
自分には、ホロリンを守ると宣言する資格すらない。
洗脳なんかではなかったと、ユカリは深く再認識した。
「......分かった」
地表が迫る。
ユカリは目を閉じ、翼をはためかせて上方向への力を生み出し、勢いを殺した。
「何が、”分かった”のだ? 今更どの面を下げて.....」
「ホロリン、貴方は敵だ」
「.....何を今更」
ユカリの言葉に、ホロリンは首を傾げる。
ただ、その心中ではある事に気づいていた。
「アドベント、ウェポン――――天魔誅殺円陣双剣・ジャスティファイ」
「その剣.....まさか」
「君を殺す剣だ」
「やって見るが良い」
ユカリの手に、不思議な形状をした剣が現れる。
中央の持ち手を中心に円形の飾りが付いており、左右対称になるように剣が接合されていた。
ホロリンは、その剣からよく練られた神魔力を感じた。
「フォース・オブ・ドラゴンスレイン」
ユカリがスキルを放つ。
その体から、赤いオーラが立ち上る。
「その力.....竜殺しの」
「空転・雷動!」
直後、ユカリの姿はホロリンの眼前に現れる。
斬撃がホロリンの身体を斬り、鱗も結界も破壊して内部にまで貫通する。
「ガァアアアッ!?」
「スキルセットチェンジ、セットソード――――ダンシングスラッシュ!!」
ジャスティファイを軽やかに振り回し、ユカリはホロリンに追撃を放つ。
その四肢を斬り、最後に首を斬り上げた。
「.....とどめだ」
ユカリはジャスティファイを正面に構える。
その途端、円形状の飾りが二つに分かれ、それぞれ半円ずつの鍔へと変わる。
二つに分かれたジャスティファイは、双剣となったのだ。
「アルビオンブレード」
ユカリの腰に吊られていた瓶から噴き出した海水が聖力へと変じ、碧い光となって剣に纏わりついた。
「オーバーロード・エンチャントブレード・フレイムドライブ」
凄まじい魔力が動き、剣に炎が纏わりつく。
そのままユカリは飛び出し、満身創痍のホロリンに斬りかかった。
「その.....覚悟.......やはり貴様は」
「じゃあね」
ユカリの目に欠片の迷いもないことを確認したホロリンは、人化して攻撃を回避。
そのまま翼を広げ、遥か上へと飛翔した。
「ユカリ・A・フォール! お前は悪魔だ! やはり、我らは魔物。お前にとって我らは害悪でしかないようだな!」
「....ちが」
「違うだと? 我を殺そうとしたその目で情けを掛けるでない! ――――さらばだ、ユカリ! また相まみえようぞ」
呆然とするユカリを前に、ホロリンは一方的にまくしたてた後に、雲の向こうへと飛んでいった。
ユカリは追おうとしたが、逃げに徹した竜を追えるほど、ユカリの飛翔魔術は出力が高くなかった。
「.......」
ユカリはホロリンが去っていた方向をしばらく見たのちに、フォールオースに降りて行った。
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