Ep-711 信じられる”強さ”
「うおおおおおお!!!」
コルは咆えながら、その拳を封獣に叩きつけた。
闘気の爆発とも表現されるような一撃が封獣を吹き飛ばし、その体を粉々に粉砕した。
直後、コルに向けて別の封竜がブレスを放つ。
彼はそれを、左腕に浮かべた闘気弾で弾き飛ばす。
しかし、大振り過ぎた姿勢からよろめき、右から飛んできたブレスを回避しきれずに受ける。
衣服が破れ、コルは素肌を晒す。
「まだ.....まだ....! うぉおおおおおおおお!!」
既に会場に貴族はほとんどおらず、コルは一人で奥の避難場所を守っていた。
リュートは貴族たちを安心させていて、ジェラルディンはコルと同じく一人で幻獣たちを相手取っている。
だからこそ、コルは悔しいのだ。
「(もっと....もっと強く.....ッ!)」
両手に浮かべた闘気弾を交互に放ち、封竜を吹き飛ばす。
だが、封竜に効果はなく、再びブレスがコルを襲う。
「狐火!」
グゥグゥガ・ブォーフォーオンがそうしろと教えたように。
コルは浮かべた狐火に闘気を混ぜ、高速で回転させる。
炎は闘気と魔力が合わさったことで、相反する二つの属性の性質から膨れ上がる。
「はああっ!!」
赤かった狐火は、一瞬蒼くなりつつも、紅さを残したまま封竜へ直撃した。
しかし、模造品であろうと竜は竜。
中級程度の強さしか持たないコルの一撃では、封竜を倒すことは困難である。
「(グゥグゥガ様が居れば........いや、違う)」
コルは一瞬浮かんだ考えに首を振る。
そして、前を睨みつける。
封竜がそれに、怯えたように引き下がった。
「それは”逃げ”なんだ!」
ブォーフォーオンに頼れば、また自分は成長できないとコルは感じていた。
だからこそ、だからこそ――――
「俺は、お前に勝つ!」
遠距離からの戦闘は不利と判断したコルは、大きく踏み込み一気に跳躍する。
そして、封竜の間合いに入った。
『よいかァァァァ、コルよ!!! 我が秘拳を喰らえ』
「我が、秘拳を――――」
かつて、グゥグゥガがコルに教えてくれた最強最大の一撃。
「喰らえ、竜顎炎打!!」
コルに再現できる限界を突き詰めた拳が、封竜に突き刺さった。
「お前の大事な者がピンチのようだが、手伝わないのか?」
その光景を見ていたグゥグゥガは、相手をしていたフェンリルのいやらしい声質の問いに笑った。
「ふん、子狐に我が随分と執心と見えたか。言っておくが、余はそんなに甘い男ではないぞ!」
「チッ、これだから竜種は!」
グゥグゥガは燃える羽根を起点に大規模な炎魔術を展開し、フェンリルを追い詰める。
挑発が通じると思っていたフェンリルは、グゥグゥガのふざけた様子に腹を立て、コルから距離を取らせるというグゥグゥガの策に嵌っていくのであった。
「おっらぁああ!!」
壁をなぎ倒し、コルは奥の庭まで封竜を吹き飛ばした。
だが、その一撃を受けて尚、封竜は生きている。
「やっぱりダメか」
コルは再び感じる。
こんな程度の自分では、ユカリ....主人の隣には立てないのだと。
「俺じゃ......俺じゃ....っ」
弱い。
何故か? 強くなるように生まれなかったから。
自分の周囲に大量にいる、強くなるために生まれてきた魔物たち。
自分はそうではない、だから弱い。
そんな負のスパイラルに陥ったコルは、迫っていた封竜の爪を避けきれなかった。
血飛沫が舞う。
「ああ.......」
頑張っても意味なんかない。
コルはそう感じ、自分を甚振るように見る封竜を睨み付けた。
殺すなら殺せ、強いお前なら余裕でできる事だろうと。
たとえ弱くとも、どんなにちっぽけな力だったとしても、せめて心だけは強くあろうと。
そう思ったとき。
「コルッッッ!!! たるンンンンどるぞッ!!!」
「わ、わぁいっ!?」
背後から声が掛かった。
コルは振り向く。
そこには、竜形態になったグゥグゥガが立っていた。
「何故お前はッ、自分が主人の隣に立てぬなどと考えるのだッ!!」
「それは....俺が弱いから....」
「いつも言っておろうがッ!」
グゥグゥガは目を閉じ、言葉を紡ぐ。
「余も最強であるが、グランドマスターは我が力を欲することはない。何故か分かるか!」
「....分かりません...」
「余はお前ではないからだ!!!!」
堂々と宣言するグゥグゥガに、コルは理解不能と言った様子で立ち上がる。
「自分の弱さに蓋をして隠すのはやめる事だな!! オマエは今、死の間際にも敵を睨みつける心の強さがあるではないか! 気高くあろうと、主人の隣に並び立とうとする忠誠がある! 貴様の弱さなどどうでもよい! 周囲がオマエを認めている! ほかに何がある! 言って見よ!」
「それは......」
「認めよ、お前の強さを! 少なくとも......オマエが弱いなどと、グランドマスターが聞いたら怒り狂うであろう! オマエにはオマエにしかない強さがある! それを認め、征くのだ、主の元へ!」
グゥグゥガは息を切らして叫んだ。
それを聞いたコルは、心に灯がともったのを感じた。
ドクン、ドクンと弱い鼓動が心の中で脈を打つ。
「そうだ、それでいい――――コル、お前は我が最強の弟子なのだァーッッッ!!!」
コルの体が光り輝く。
そして、その等身がたちまち変わっていく。
大きかった宝具が、変わったコルに合わせて正しいサイズへと変わる。
「進化、した.....?」
「む? 思ったより伸びんな、しかし.....充分ンンンン!! さあ征け、コルよ! あの愚かな竜を叩き潰せ!」
「はい!」
自分は弱い、しかし――――自分の強さを認めてくれる存在がいるなら、自分はどこまでも強くなれる。
そう信じ、コルは拳を握り締めて封竜へと向かうのだった。
「くっ.....」
私は膝を突く。
お父さんを追い詰めたこのネメアとかいう幻獣、力を隠したままでは到底勝てない。
だけど、力を解放すればお父さんにあとでその出処を咎められる。
「(どうしたら....)」
「もういい、ユカリ。これは俺の戦いだ」
「違う、違う!」
私は首を振る。
物理攻撃に対して完全耐性を持つというのが本当なら、お父さんが敵う道理はどこにもない。
このまま私が下がったら、お父さんは殺されてしまう。
「.....?」
その時。
視界の端で、「パーティーメンバー:コルが進化しました」という見慣れない表示が点灯した。
確認する暇はない、でも――――
「お父さん、今から見せる力は――――後で説明するから、黙っててね」
コルが。
あの弱い弱いと自分の強さを信じられなかったコルが、進化したんだから。
私も全力で戦わないと、ね?
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