Ep-710 フォールオース大空戦
本日の更新はこれで終わりです。
ご了承ください。
その頃。
フォールオースの制空権を完全に握り、攻撃を仕掛けていた魔国軍だったが...
「おい、何だあれ...?」
「敵だ...司令部に報告!」
南に布陣する魔国軍に対して、北より現れたのは...フリングホルニ。
追随するスキーズブラズニルの数は...八十。
魔国軍と同じく、大規模な魔力隠蔽にて周辺の山脈に偽装していたのである。
『現在展開中の全ての魔国所属の魔族に告ぐ!』
その時、流暢な魔国語で、フリングホルニから音声が放たれた。
その音はフォールオースにも響いていた。
『即刻撤退すれば、諸君らを追う事はしない、繰り返す、即刻王国領より撤退せよ』
『バカを言うな、人間に降った雑魚魔物どもが。我ら至高なる魔族に対して無礼であるぞ』
返答は、傲慢なものであった。
それ以上の会話は不要とばかりに、魔国の要塞が先発して攻撃する。
フリングホルニが急速展開した大型の魔法障壁によってそれは弾かれ、反撃としてフリングホルニの両翼から何百発ものマナ-クロスボウによる一撃が放たれる。
原理としては、ユカリの使う弓と同じである。
矢を魔力で生成して放つ。
だが、地味に見える矢にも、実はユカリ監修の工夫が入っているのだ。
数百基あるフリングホルニの大型クロスボウには、一個一個精緻な立体魔法陣が起動時に展開されるように設計されている。
これは、以前ダンジョンの防衛に使うと言ってユカリが発注に応えたものを、フューレが頑張って複製したもの。
『魔導障壁に被弾! 出力85%まで低下!』
『バカなっ、ただの魔法の矢では無いか!?』
「加速」、「加速」、「加速」、「回転」、「回転」、「回転」、「密度増加」、「質量増加」、「貫通」。
刻まれた立体魔法陣には、そんな意味があった。
ユカリの卓越した魔法陣技術でしか作れない、フューレですら複製に苦心した精密なもの。
それが、現代魔族の造った障壁に衝突すれば。
突き刺さり、奥まで突き抜けるのだ。
『敵艦隊、接近!』
『ならば、こちらも魔導秘儀器で対応するのみよ!』
直後、要塞の上部に巨大な魔法陣が浮かぶ。
魔法陣の中央から、崩れ落ちた塔が、魔法陣に描かれた四隅の円陣から、尖塔が突き出した。
尖塔は魔力を急速に充填し、中央の崩れた塔にぶつけた。
塔は崩壊しながらその魔力を収束させ、
「参る!」
恐るべき威力の魔導光線を放つ。
だがその一撃は、フリングホルニから飛び出したオーディンが受け止めた。
その斧の名は。
「雷震斧ッ!」
魔導光線がスパークしながら斧の刃に吸い込まれていく。
オーディンはそのまま斧を振るった。
空から墜ちてきた豪雷が魔族の空中要塞に激突した。
まるで至近距離に雷が落ちたような衝撃音がして、魔族の要塞を覆っていた魔導障壁が一瞬撓んだ。
「今だ、やれ!」
フリングホルニの先端部に魔法陣が浮かび、そこにクロスボウが一斉に放たれる。
クロスボウは再び魔力に還元されてその魔法陣へと入り込み、まるで竜のブレスのような一撃が放たれた。
一切拡散せず、それはフォールオースの結界スレスレを通り抜け、魔国軍の魔導障壁にぶつかる。
ぶつかった直後、爆風と耳を劈く摩擦音が響いた。
障壁を破壊したフリングホルニの必殺技『束ねし矢は岩をも砕く』は見事に魔導障壁を粉砕し、魔国軍の要塞は無防備となる。
『ッ、何故野蛮な魔物どもがこんな技術を...!』
『偽の魔王に仕えし者達よ、貴様らを守る障壁は消えた、我らが主人に恭順するか、このまま逃げ去るか選ぶがいい』
その時、パーティー会場から飛び上がったブラックルーンドラゴンが、拡声魔術を使って叫んだ。
彼も一応、魔族語の徒である。
『ふざけるな、貴様...災害たる魔竜が人間に従うとはな!』
『災害...? 違うな、我は...守護者だ!』
直後、ブラックルーンドラゴンが口腔に黒い魔力を収束させる。
その魔力は、放たれると同時に要塞に直撃した。
一瞬で何百人もの魔法結界が張られるが、虚しく崩れ去る。
『だが...我等にも希望は居る。ホロリン様、我らに力を!』
「何っ!?」
その時。
雲の上から飛び出してきたホロリンが、その爪でブラックルーンドラゴンを急襲した。
ブラックルーンドラゴンは慌ててそれを回避し、猫の形態に戻ってホロリンの周囲を飛ぶ。
「魔族のペットに成り下がったか、ホロリン!」
「否定はせぬ、行くぞ!」
そして、再び両者は衝突する。
ホロリンがその爪を振るえば、上空の雷雲から無数の雷がブラックルーンドラゴンを襲う。
だが、ブラックルーンドラゴンの姿が不定形になったと思うと、雷を回避したうえで巨大化、元のサイズへと戻った。
「で、デカすぎる....」
「巨大化のようなものだ、落ち着け!」
魔国軍は動揺しているが、巨大化して弱くなっただけだと直ぐに落ち着きを取り戻した。
だが、しかし。
「我はユカリ様の配下を信頼しておるだけよ――――ガオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
ブラックルーンドラゴンは咆哮する。
その咆哮は天地を揺るがし、そして――――魔力すらも震撼させる。
咆哮によって拡散したブラックルーンドラゴンの魔力が、周辺の魔素を引き寄せて彼の中に取り込ませた。
「格の差を思い知るがいい、若造め」
直後、ブラックルーンドラゴンの翼の周囲に無数の魔法陣が浮かび、黒い雷がホロリンと要塞を襲った。
先ほどの意趣返しである。
「何故それほどの力がありながら、あの愚かな主に従う?!」
ホロリンは雷を軽くかわし、暴風のブレスを叩きつける。
黒い鱗で魔力を打ち消したブラックルーンドラゴンは、それを鼻で笑った。
「その未熟すら愛せぬお前に、主従を語る資格などないわ」
「わからぬことを....! ならば弱き者を護って死ね! 〈風災竜化〉!」
ホロリンの全身の鱗。
その隙間から風が吹き抜け、ホロリンの体の部位のあちこちがより戦闘を意識した形状に変化する。
「それが、裏切りの末に得た力か?」
「その通り。我に感謝もせぬ主より、余程我を認めたようであろう!」
直後、凄まじい速度で動いたホロリンが、スキーズブラズニル数隻を叩き落とした。
草原に落下したスキーズブラズニルから、逃げ出してくるゴブリンに、ホロリンは容赦なく風の刃を飛ばして殺害した。
「貴様.......」
「弱き者が死に、強き者が生き残る。こんな弱者を配下にして何がしたいのだ? 我のような強者に目もくれぬ愚かな主。ブラックルーンドラゴン、貴様は目が曇っているに違いないと我は思うがな」
「たかが数年生きただけの若造が偉そうに言うものだ」
ブラックルーンドラゴンは、死んだゴブリンに右手を向け、強制的にグールへと変えた。
これで、ゴブリンは記憶と存在を残したままになる。
ユカリが悲しむことはない。
そう判断したブラックルーンドラゴンは、ホロリンを名実ともに敵と判じた。
「”死ヌガイイ”」
直後、ブラックルーンドラゴンの背に浮かんだ魔法陣から、黒い光線が空に向かって飛び出した。
光線は空に作られた力場に衝突すると反射し、速度を上げてホロリンと要塞に降り注いだ。
要塞はそれによって上の構造物が吹き飛ぶが、ホロリンは光線を真正面から弾いていた。
「そんな弱い攻撃が通じるものか!!」
「戯れに過ぎぬよ」
「抜かせ!」
ホロリンは速度を上げ、ブラックルーンドラゴンと戦う。
高速で飛び回る小さな対象を前に、ブラックルーンドラゴンに打つ手はない――――そう思われたが、
「〈魔素激震〉」
「グハッ?!」
放たれた黒い波動が、ホロリンを攻撃する。
ホロリンの鱗が飛び散り、彼は墜ちていく。
「久々に暴れたが、悪くはないものだな」
ブラックルーンドラゴンは大きな姿のまま微笑む。
だが直ぐに、厳しい目に戻って下を見た。
「........お前を認めるわけにはいかぬ、我は――――強い!」
竜から人へと変じたホロリンが、浮上してきていた。
ブラックルーンドラゴンは口端を歪めると、姿を変えながら言った。
「変身比べとは、光栄の至りよ」
その姿が黒猫へと変わり、人型のホロリンと並び立つ。
「殺死合おうぞ」
「望む所だ」
両者は再び互いに戦いを始めた。
それを尻目に、魔物と魔族の戦いは再開した。
竜同士の戦いに介入することはできない。
だからこそ、彼等にとって最大の援護はどちらかが勝利する事だけであると察したのであった。
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