Ep-705 パーティー準備
数日後。
私はリュートと共に、パーティーの準備を進めていた。
基本はお父さんがやってくれるので、後は呼ばれなくてもやってくる貴族以外の招待客の選別、パーティー会場の飾りつけ、後は料理の提供などだ。
「リュートってこういうの詳しかったんだ.....」
「勿論だ、これでもアルバン伯爵だからな」
リュートはそう言いつつ、料理人の手配を進めていた。
今回の会場は、お父さんが用意した大きな会場で行うため、参加者もそれなりに多くなる。
つまりは、屋敷の料理人だけでは到底手が回らないのだ。
「招待状は私が書くから、リュートは飾り付けと料理をお願い、アルセインは.....」
「はい、分かっていますよ。」
アルセインは会場のデザインを行う人の手配や、料理のメニュー、その買い付け先などを纏めた書類を作ってくれている。
というわけで、私は自動術式を組んだ魔術でペンを動かし、タイプライターのようなもので招待状を書いている。
本来は代筆をしてくれる人を雇うものだが、私にはそういう人はいないので一人でやるしかない。
「フォーランドにこんなに貴族がいたっけ.....」
「ああ、それは周辺の貴族も対象だからだな」
「なんで?」
「王妃の開催するパーティーに参席したくない貴族がいるか?」
「....成程」
彼らはそれとなく参加したいな〜という旨の手紙を書いており、それをお父さんが選別してリスト化してくれたようだ。
私はその人たちに向けて手紙を書くだけだ。
「んーっ」
暫くして、休憩に入った私は背筋を伸ばした。
コルは文字が書けないために書類仕事はさせられないので待機させているが、ジェラルディンには下級貴族へ向けた便箋の作成を依頼している。
子爵お手製なら、流れ作業でも失礼には当たらない。
「すっかり冬だね」
「全くだな」
保温の役割も併せ持つ結界があるからこそ、寒さを感じないが。
一歩外に出れば、冬の寒さが肌を突くだろう。
”これでも”フォーランドは温暖な地域のため、雪は降らないけど.....
「ところでリュートは、今回のパーティーはどういう立場で参加するの?」
「賓客にはしてくれないのか?」
「それでもいいけど....」
他の貴族や、家族もいる関係上リュートを賓客扱いにするのは問題があるような気がする。
だから、リュートには...
「リュート、私のパートナーとして出ない?」
「...! 良いのか?」
「実際には受けてないけど、リュートが私に援助をしている関係と公表しても悪くないと思うんだけど?」
「それは...そうだが」
私はリュートからの資金的援助を受けてはいない。
ご飯を奢ってもらったりはするけど、あくまでその範囲に留まる。
だけど、事実と異なろうとも、それを公表するメリットはお互いにある。
資金的にかなり余裕があるとはいえ、アルバン伯爵家が重い腰を動かして援助するほどの人物と私は評価を受け、リュートは王妃に気に入られていると思われ、アルバン伯爵家に関連する雑事を円滑に進められる。
「だが、良いのか? 王子が怒りは...」
「大丈夫。私が説得するから」
ジルはそんなに狭量じゃないって信じてるから。
それに、彼だって必要なことだとは頭で理解はするはず。
じゃなかったら、私の旅を許してはくれなかっただろうし。
「ともかく、今はやるべきことに戻ろうかな」
「ああ、そうしてくれ」
まだまだ二百通くらい書かないといけない。
私は現実から若干目を逸らしつつ、作業へと戻るのだった。
コルは、中庭で一人修練をしていた。
魔物の導師に一週間師事したコルは、力の使い方について指導を受けつつ、進化できない要因について調べていた。
「はぁああああっ...」
コルは身につけた技を発動する。
と言っても、スキルや魔法ではない。
自らの内にある魔素と気力を練り上げ、「領域」を作り出す。
可動性のない肉体強化魔法陣のようなものだ。
自分の能力は、その領域の中であれば向上される。
肉体強化魔技を持たないコルでも、擬似的に肉体強化を行える。
「〈狐火〉」
コルは退化した時に種族が変化した。
即ち、進化ツリーが変わったのだ。
だというのになぜ進化できないのか?
それについて導師は、
『分からぬ。魔物とは、自らが希う事で可能性の先へと進化していくものじゃ。わしは憎悪と悪意でこの進化を遂げたが、お主には少なくとも目的がある。如何様な壁があろうとも、必ずそれを突き破り、高い位階へと昇れるはずじゃ』
と答えた。
コルはそれについて考えたが、やはり分からなかった。
進化したいと強く望んだとしても、彼の身体は幼いまま。
守りたいと思っている主人は、逆に自分を守っていた。
「俺は...俺は変わりたい...!」
掌に浮かべた狐火が、魔力と闘気を帯びて加速、熱量を増大させていく。
グゥグゥガ・ブォーフォーオンにコルが教わった、火系技の威力増加の手段である。
より速く、より強く。
そうする事で、威力を少しでも引き上げることができるのだ。
「変わりたいんだっ!」
その時、火が僅かに黒色を帯びた。
コルはそれを見て、狐火を消した。
「ダメだ、もう二度と...あんな事は」
暴走する瞬間の記憶を、コルは覚えていた。
黒い感情が膨れ上がり、留まることを知らずに加速していく。
自分という存在が無尽蔵に引き延ばされて、羨望と嫉妬の中に消えていく。
何より、愛する主人に牙を向けたのは自分自身だという罪悪感。
それが彼の進化を縛る唯一にして絶対の鎖である事は、彼もまた知らないのであった。
「はっ、せっ! たぁ!」
コルは武術の特訓を始めた。
その音は、作業をしているユカリの耳にも届いていた。
各々が思想を持ちつつ、それぞれの苦労を背負い込み、パーティーまでの日にちは確実に近付いていた。
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