Ep-704 形骸化した決意
数週間後。
フォールオースで冒険者稼業をやって、私はなんとかパーティーの費用を得た。
この街にも、次々とフォーランドの貴族が集まり始めている。
「あなたの服? まだ出来てないわよ」
「そうですか.....」
私はペリエール洋服店を訪れていたが、特に進展はなかった。
今回は素材の採取を私がやった事で、自信作となり時間をかけて制作するとの事だ。
「よしよし」
私は家に戻り、シロを撫でてやる。
シロの隣には、ジェラルディンのペットとなった「クーリー」がいる。
新入りのクーリーを、シロがしっかり睨み付けてお世話しているようだ。
「ユカリ様、買い出し終わりました」
「ありがとう」
そして、もう一つ。
コルが修行の旅から帰ってきた。
何でも、魔物に詳しい『導師』なるアンデッドに会って来たらしく、以前より遥かに強くなったという。
「どう、進化の兆候はある?」
「.....ないようです、すみません」
ただ、進化はできない。
魔眼で見る限り、コルの経験は十分なはずで、願いも正しく存在しているはず。
だとすれば、可能性はたった一つ、でも......
「俺が進化すること自体が、誤った事なんでしょうか.....?」
「....違うよ、少なくとも、私はそう信じてるから」
コルの最終進化とは、あの燃え盛る狂暴な獣なのではないか。
そう思ったことは何度もある。
だけど、その在り方は魔物からは逸脱している。
「(この世界を創った存在って、相当悪辣だよね....)」
ただ滅ぼし、誰かにとっての敵になる存在にしかなり得ない生物を生み出すなんて。
それは、生態系に反しているとしか思えない。
「私たち、次はハオンに行くから。コルもそこで武術を身につけるといいよ」
「はい!」
コルは進化できない。
それは、五次突破が出来ない私と同じ。
つまりは、進化によって得られる力以外のリソースから強さを得ればいい。
コルの場合、魔力と聖力に低いけど適性があり、闘気と気力に才能がある。
聖力に適性があるのは意外だったけど、コルには浄化されたときの聖痕と、炎による浄化の現象を併せ持つ。
「まあ、頑張って。私はコルが必要だって、攫われたときに益々思ったから」
「はいっ!」
コルがいれば、すぐに通報が出来た。
それに、並の人間ならコルが余裕で制圧できる。
当然、魔導武器頼りの魔族に負けるはずがない。
「ジェラルディン、クーリーの食べ物は分かった?」
「コイツ、肉食わねえじゃねえか!」
どうやら分かったらしい。
話を聞いてみると、肉を与えてみたが食べられなかったそうだ。
牙が未発達で、仕方なくジェラルディンがすり潰した果物を与えて食べさせたそうな。
「ったくよー、何で俺がこんな事」
「.....思い付きで助けたなら、その報いはいつか何百倍にもなって返ってくるよ」
私も別に裏切られたわけじゃない。
でも、私を裏切った三体も、きっとその”報い”だ。
「わーってるって! 段々愛着も沸いてきたし、変わった犬だと思って飼うぜ」
「ガルルルルル.....ガオオオン!!」
「な、なんだシロ! やめろって!」
その時、憤怒の表情を浮かべたシロがジェラルディンに襲い掛かる。
犬と言われたのを、自分の事だと思ったのかもしれない。
「あはは....」
私はその光景を見て笑う。
やっぱり、あの協力体制は呉越同舟だったのか、と。
数時間後。
私は、フォールオースの地下道に来ていた。
急遽整備されたこの地下道だけど、警備がいないせいで急速に発展する都市の闇を抱える事となった。
だけど今は、すっかり無人になった。
何でかと言うと、魔物が棲みついたからだ。
「グランドマスター様、ようこそおいでくださいました」
「うん」
フォールオースの防衛機構、グローリアス・ユニオンの地下要塞.....ダンジョンコアを持ち出して、無理やりダンジョン化した基地だ。
私の家を守るため、ここにダンジョンを作ったのだ。
「魔族の状況はどうなってる?」
「はい、こちらです」
私は最近になって、魔族たちの潜伏場所を突き止めた。
しかしそこは既に放棄されていて、私たちはある種の違和感を覚えた。
魔族が、フォールオースの周辺から撤退を始めているのだ。
「やっぱりね」
何か起こそうとしているようだ。
だけど、やっぱり変だ。
フォールオースの魔術防壁は、魔導兵器でもそうそう破れるものではない。
それなら、戦力を結集するべきなのだが、散り散りになるように撤退している。
「超位魔術は目立つからなぁ」
何をやっているかバレる。
だから、超広域魔力感知などもそうそうできる事ではない。
秋締めの祭りが近いこの時期に、要らない混乱は起こすべきじゃないだろうしね。
「どうされるので?」
「戦はよく知らないけど、あまり目立つことはやりたくない。だから、ヘリオス=ソルを二基展開して待機」
「はっ、はい!」
奴らは何をする気なのか。
私はずっと、それだけが気になっていた。
「じゃあ、私は塔に行くから」
「はい、お立ち寄り頂きありがとうございます」
”塔”というのは、フォールオースの一等地に建てた塔だ。
魔物たちが知っているのはなぜかと言うと、
「起動せよ」
私は塔の中へと入る。
そして、壁面に刻まれた陣を起動した。
この”塔”は、ハルファスが一瞬で作ってくれた巨大な結界補強装置だ。
フォールオースの魔法結界は、先ほども言った通り堅牢だ。
しかし元々はそうじゃなかった。
どれくらいかと言えば、ゼパルが木の棒で一閃したくらいで壊れるレベルに脆かった。
だから、ハルファスに頼んで塔を作り、密かに術式を追加して結界を補強している。
「.....お父さんにはもう戦わせないから」
私は強く決意する。
お父さんは強い、でも黒龍刀がない以上、いつかはお父さんにも勝てない相手が来る。
幻獣はそういうものだ。
「ここまでやっても、まだ不安だな....」
幻獣の規模は、結局どこまで大きいのかわからない。
幻獣騎士団なるものまで現れたしね。
「私が強くなるしかない、ないんだ.....」
誰もいない塔の中で、私は何度目かもわからない決意を固めたのであった。
面白いと感じたら、感想を書いていってください!
出来れば、ブクマや高評価などもお願いします。
レビューなどは、書きたいと思ったら書いてくださるととても嬉しいです。
どのような感想・レビューでもお待ちしております!
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。




