Ep-703 毒竜討伐
そういうわけで、私たちは沼地の中央部、最も濃厚な魔力のある場所へやってきた。
そこには、これまた毒のある木で作られた簡素な木柵があった。
「なあ、これ…」
「人化出来るタイプか、厄介な」
私は呟く。
人化は望んでなければ出来るようにはならない。
では、どのように使えるようになるか?
それは、二つの可能性を持つ。
ひとつ、人間と仲良くなりたいと願った結果。
次に、魔物を油断させたり、人間に隙を見せさせるための能力。
「ファイアストーム」
「あ、おい!」
私は容赦なく木柵を焼く。
柵が焼けた頃くらいに、奥からのそのそと大型の竜がやってきた。
「なんだ、動きは遅…」
「聖域よここへ、サンクタム・フィールド!」
素早く聖結界を張り、毒竜がぶっ放した毒のブレスを防ぎ切る。
鈍重なように見せかけて、彼等の武器はその強力無比な遠距離攻撃だ。
見れば、魔法を詠唱している。
魔法を使うということは、それに値する知能を持つということだ。
「ならば、容赦する必要はないね…ジェラルディン、行って!」
「ああ!」
ジェラルディンは毒耐性が付与されているから、簡単には死なないだろう。
そして、彼が持つ剣もまた強い。
『絶対破断・肆式』という名を持つそれは、かつてはパイモンという魔王の持ち物だったそうだ。
彼は自分の魔剣に、形式的な名称を付けるのが好きであり、ゼパルは譲り受けた時にその銘を全て律儀に受け継いだのだ。
「うおおおっ!!」
ジェラルディンには過ぎた剣だけど、あの剣は生きている。
ゼパルからジェラルディンに正式に譲り受けたことで、新たな主人の未熟さを認め、かつ主人に対して良き剣となろうとしているみたいだ。
あれで斬れないのは、あの剣より強い存在だけ。
大抵何でも斬れる。
「ガアアアアアッ!?」
「よっしゃあ!?」
ジェラルディンは毒竜のブレスを斬った。
だが、彼が未熟なので、ついでに魔力も持って行かれているようだ。
「クリエイトウェポン、ハンターボウ、スキルセットチェンジ、セットアロー」
私は武器を構える。
魔力の矢を番え、残心の姿勢のジェラルディンの横を狙い撃つ。
腕を上げようとしていた毒竜の腕の付け根にそれが突き刺さり、毒竜は一瞬動きを止めた。
「海神の宝冠を戴く我が命じる、理よ屈服し、神敵を潮の檻へと閉じ込めよ」
素早く詠唱を行い、毒竜を海水の泡に閉じ込める。
これで、ジェラルディンが立ち上がる隙が生まれた。
「うおおおおっ! クロススナッチ!」
「ギャアアアアアッ?!」
泡ごと剣は毒竜の皮膚を薙いだ。
鱗が飛び散り、毒竜は苦痛に悶絶する。
血が溢れるが、塩分の濃度が低いからか、こちらの干渉を受け付けない。
「ジェラルディン、下がって!」
「ああ!」
私は短縮詠唱で神業操奏盤を呼び出す。
「ロー・エ・ルータ」
呼び出した陣に指令を乗せ、高速で構築する。
水神の権能と海神の権能を組み合わせた合わせ技である。
「な、なんだ!?」
直後、周囲から暗雲が集まってくる。
集まってきた暗雲は、その色を青色に変えて雨を降らせる。
「グギャアアアアアッ!?」
毒竜が苦しみだす。
まあ、そりゃあそうだ。
だって、水神の権能で聖水に変えて、海神の権能で塩を含ませた雨だもの。
魔物にも効くし、何よりその傷に塩が浸み込んでかなり痛いはず。
苦しむ毒竜を前に、私は次の聖技を発動する。
「マ、マッテ! コロサナイデ!」
毒竜が人化した。
手を上げて、降伏の意を示す。
「ユカリ!? どうするんだ!?」
「アルビオン・シージ!」
私は雨粒全てを蒼い槍へと変え、毒竜を包囲させる。
そして、一気にそれを毒竜へと襲い掛からせた。
「ギャッ!?」
「ユカリ、なんで!」
ジェラルディンが叫ぶ。
そんな見え透いた嘘、見ればわかるよ。
「命乞いをしながら魔法を使おうとする奴が、信じられるわけないでしょ」
「そ、そうだけどよ.......ユカリらしくないぜ?」
「........元が優しすぎただけだよ」
イグアスの例があってから、私は盲目的な信頼を捨てた。
「ジェラルディン、とどめを」
「わ、分かった」
ジェラルディンは魔剣を構える。
毒竜は人化が曖昧になり、傷だらけの姿で横たわっている。
「悪いけど、人化を騙すために使う魔物を生かしておくわけにはいかない」
「ああ! クロススナッチ!!」
ジェラルディンは剣を振るい、十字の斬撃を放つ。
血が噴き出し、ジェラルディンに降りかかる。
「..........なあ、ユカリ」
「何?」
「やっぱりこいつ、生かしておかねえか?」
「....なんで?」
「だってよ、お前がクソ強いって事はこいつも十分理解した訳だろ?」
「つまり、それで敵意が消えたって言いたいの?」
それは甘いんだよ、ジェラルディン。
結局、人も魔物も、そう簡単に変わらない。
「じゃ、じゃあよ! イグアスを黙らせたあれをやってくれよ」
「いいけど、ジェラルディン......面倒見れる?」
「ああ! やってやるさ!」
ここまで言うなら仕方ないか。
「.......水神の座を継ぎ、海神の宝冠を戴きし我が命じる。理よ隷属し、彼の者に絶対的な忘却と邪心浄化を行い、邪悪なる力を奪い給え」
….ぐっ、ちょっと無理した。
しかし、これで毒竜はジェラルディンのペット枠だ。
「全く、信仰力のストックまで使ったんだから、面倒はちゃんと見る事!」
「ああ....分かった」
毒竜は私の聖技によって無理やり力を奪われた影響で、退化してしまっている。
四氣相克で暴走したコルを浄化したときと同じ感じだ。
「あ、草原が.....」
聖水の雨を降らせたからか、毒の沼が消え去り草原へと戻っていく。
もっとも、塩水なのですぐに塩害で荒野に変わると思うけれど。
「その竜は、とりあえず記憶を全部奪って邪悪な力を全部消して、幼体まで退化させたから。本当にその子を助けたいなら、正しい方向に導いてあげて」
「分かった! 俺は責任を持ってこいつを育てる! …..俺はこいつを信じてる」
まるでコルのようだ。
だけど――――明確に違うのは、コルは自分の意思で正しい進化をしようとしている。
この竜は、ジェラルディンが正しい進化に導く。
「なあ、こいつって何喰うんだ?」
「肉じゃないの?」
「了解!」
ジェラルディンは毒竜だったものを抱えて走っていった。
まだ魔物がいるかもしれないのに、陽気なものだ。
「.......信じる、か」
信じるって、どういう意味だろう?
いや、分かってはいるけれど..........今まで抱いていた感覚とは違う。
私は......誰を信じているんだろう?
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