Ep-701 魔物たちの神
私は、ダンジョンを訪れていた。
何でかというと、裏切った三体について話を聞くためだ。
彼らの位置、既存の情報とどう変化したのかを。
彼等と幻獣が組んでいるのはほぼ確定だから、彼らがいる場所がそのまま幻獣の次の陰謀の地となる。
「ホロリン、ワイズマン、デッドアクシズのうち、行方が分かっているのはホロリンとデッドアクシズだけですね」
「ワイズマンはいないのね....」
ワイズマンはかなり凶悪なアンデッド系魔術を扱う。
放置すると、デッドアクシズと組んでとんでもない事になる可能性もある。
「ホロリンについては、ユカリ様と会敵後、移動中のスキーズブラズニルが東方面に飛んでいくのを目撃しています」
「デッドアクシズはハオン地方で魔力が一瞬観測されています。武林と呼ばれる地域で、特殊な霧のせいで魔力探知が効きません」
「次はそっちかな」
だとすると、周遊はここで一度終わりにするべきだろうか。
一度王都に帰って、そこを経由してハオンに行くべきか。
「ところで、私の特製聖水はどう?」
「はい、全く問題ありません。性質を反転させたのですか?」
「ちょっと違うんだけど....まあ、結晶が機能してるならいいよ」
私とアビスは、魔聖水についての話をする。
聖水は魔物に対してダメージを与えるけれど、私はその性質に手を出すことを決意した。
魔王の魔力を聖水の持つ特殊な波長に同調させて、無理やり馴染ませたものだ。
結晶から湧き出るようにはしているけれど、神聖水に比べて効果は悪い。
「このままなら、もしかすると魔物でも聖技が使えるようになるかも?」
「悪夢のようですね」
魔聖水を媒介にして、神聖陣を行使できれば使えるようになるはずだ。
「そういえば、私が神になったことはダンジョンの魔物も知らないんだったね」
「ええ」
無駄な反感を買いたくないからだ。
ダンジョンマスターが聖女なくらいは許せると思うけど、神になったなんて言ったら....
きっと恐れられるだろう。
恐れるあまり、従うしかなくなる。
それは歪だから駄目だ。
「ただ、オーディンの部下たちには公開しようと思うんだ」
「何故ですか?」
「”信仰”だよ」
神たちが使う絶大な力。
神の格を司り、神の力そのものになる信仰。
つまるところ、敬愛も忠誠も信仰だろうから。
「彼等から信仰力を得られるのなら、慎重に情報を公開していく。」
「ユカリ様を信仰しないなど有り得ません」
「だから、それが一番嫌なの!」
信仰を強要するとか、それもう邪神の類じゃん。
.....いや、魔物を統べる時点で、何も知らない側からしたら邪神みたいなものか。
「前々から言っていますが、ユカリ様は魂の本質から流れ出る力が凄まじいのです。魔物の中には、その力を進化の際に垣間見て、ユカリ様を信奉する魔物も多いのです」
「魂の力....ねぇ」
膨大なスキルのどれかから、魔物たちにパワーが流れ出ているようだ。
実益があって、神秘的な力を目の当たりにすればそうなるのも当然なのかな?
「よし、第六層に行くよ」
「はい」
彼らに会うため、私は第六層へと向かうのだった。
「グランドマスター様、万歳!」
「我らにご加護を!!」
そして、一時間後。
私は彼等と話していた。
ホブゴブリンとハイオークは、私に感謝を述べ、信仰は当然のものだと語った。
でも私はそれを受け入れる気にはならなかったので、加護を与えて等価交換とした。
「ちょっと負担はあるけど...でも、みんなの想いが伝わってくるような気がする」
神に向けられる想い。
きっとこれが、太陽神が以前に言っていた「想念」なのだろう。
『継承者、お分かりですか?』
「うん」
『人の想いを汲み上げ、それらを選別し叶える。それが、神という存在なのです』
「じゃあ、それはいつも聞こえるの?」
『いいえ。祠をどこかに設置すれば、想いはそこに集い霧散します。しかし、祠を建てないうちは、受け取った信仰に想念が付いてくると思います』
祠ねぇ...
アビスに建てるように言ってもいいけど。
とりあえず私は、第十層へと戻る。
頭の中で声が響いて、耐えられそうにないからだ。
「〈万物創築〉」
急いで記憶にある祠を作り、地面に突き刺す。
そして、中に水神と海神の力を込めた水晶を置いた。
「水神を継ぎ、海神の宝冠を頂くこの我が命じる。理よ屈服し、我に集う想いの一部を今一度変流させ、この祠へと移せ」
これで、想いだけが振り分けられてこの祠に戻ってくる。
後でゆっくり見れるはずだ。
『では、私が仕上げをいたします』
「お願い」
『水神であった者として、継承者の名を借り命ず。理よ屈服し、ここを新たな水神の祠として在らしめよ』
すると、祠が薄く青い光に包まれた。
それだけではなく、私が展開しているあらゆる魔術的感知能力が、この祠に対して作用しなくなる。
「これは...?」
『この場所を水神、海神の聖地へと変えました。勿論、水神の神殿にも聖域は残っていますが、この祠の周囲だけは別格です』
なんでも、力の本体がここに移動したらしい。
本体は破壊できるようなものではないため、危険などはないのだが、水神が私を気遣ってくれたようだ。
「すごく清浄な力を感じる、ここに死体を投げ込んだら生き返りそうなくらい」
『我々でも死者の蘇生は出来ません、しかし...傷ついた魂魄を癒す効果であれば、この聖地には微弱ながらあります』
「今度からここで寝泊まりしようかな...」
私は思案する。
正直、四氣相剋は魂への負担もすごい。
ここで寝泊まりすれば、その負担で負った魂の傷も少しは癒えるだろうか?
まあ、ともかく。
「上手く行ったから、今後は私がここのみんなを守れる」
『水とは常に変じるものです、気になり、水になり、氷となります。直ぐに表情を変える海そのものを司るあなたであれば、魔物の神になったとしてもそれは異端ではありません、新しい可能性なのですよ、継承者』
水神はそう言い切る。
でも、私もそう思う。
神が人間の味方をするばかりではなく、少しは人間の敵に味方してもいいと思う。
勿論、この場合は人間の味方の魔物に、だけれど。
私は魔物たちの神になる。
そうあっていいと思うから、私はそうするだけだ。
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