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【300万PV突破】不人気職の俺が貴族令嬢に転生して異世界で無双する話 ~武器使いの異世界冒険譚~  作者: 黴男
第一章 王都決戦編

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Ep-700 家族

「〈魔装換装(チェンジドレス)〉」


私は父を追うにあたり、クロウの姿へと変装する。

父に見つからないだけでなく、この衣装は更なるアップグレードで私の気配自体をある程度隠してくれるようになったからだ。


「どこへ向かったんだろう」


微弱な魔力マーカーを付けてあるので、父がどこに向かったかはよくわかる。

フォールオースの外周部に向けて移動している。

だけど、道選びも方向転換も的確だ。


「慣れてるのかな」


相当長い付き合いとか?

だったらお母さんキレるな...


「地上は目立つかな――――〈舞夜之(コルニクス)鴉羽(アーラ)〉」


黒い翼を開き、魔力を使って空を飛ぶ。

父はフォールオースから外れ、森の中へと入っていく。


「随分野性的なような....」


父親の評価を見直さないといけないかな?

そう思いつつ、私も森の中へと飛び込む。


父は森を駆け抜け、月明かりの差し込む広場で立ち止まった。

随分ロマンチックな場所で落ち合うなあ....

私はすぐ傍の木の上に腰掛けた。


「おや、君が約束を守るとは思わなかった」


その時。

聞きなれた声が響く。

父の眼前、森の暗闇からマルコシアスが現れた。

その顔には、貼り付けたような嘲笑が浮かんでいる。


「.......マルコシアス、様」

「え?」


その時。

父が絞り出すように、彼女らの名前を様付けで呼んだ。

それは私にとって、とんでもない裏切り行為だった。

しかし、飛び出さずによかった。

その続きを聞き、私は納得したからだ。


「お願いします、娘の命だけは」

「ダメだよ。愛する領民たちを犠牲にしたくなければ、娘のユカリを暗殺する手筈を整える事だね」

「俺は......拙者は、愛する娘にそんな事は出来ない」

「死にたがりのようだね、ボク達の力は充分知ってるはずなのに」


父が刀を抜く。

私に黒龍刀を譲ったから、あの刀はただの刀の筈。

マルコシアスと戦うほどの力はない。

それでも、月明かりに照らされて輝くその刀で。

お父さんは私のために戦おうとしている。


「じゃあ死ね! 蒼炎乱舞!!」

「神島流・奥義――――栄枯雪月!」


一瞬、魔力でも、気でもない何かの力を感じた。

直後、お父さんに向けて飛んでいた蒼炎がしぼんで消えた。


「へぇ、やるね! なら――――」

「遅い」


マルコシアスは一瞬で父の背後に転移するが、直後に斬られる。

白い粒子が舞い、マルコシアスは苦悶に顔を歪めて退く。

強い。

持っているのはただの刀のはずなのに.......

場数が違う。

そんな印象を受けた。


「(魔力でごり押しするだけ.....なのかな)」


他の魔王と違って、私は常に弱い。

その理由がここにあるような気がする。

力の使い方を理解しているのではなく、本質的には理解しておらず、結果としてごり押しのような形で解決してしまっているだけなのだと。


「くっ、だったら――――操竜蒼鎖(そうりゅうそうさ)!」


大きく距離を取ったマルコシアスは、地面に手をついて炎の龍を生み出す。

それは父に向かって真っすぐに襲い掛かる。

どうする....?


「巽流奥義・千刃壱突き」


また、見たことのない力を感じた直後。

炎の龍が無数の見えない力に貫かれて崩壊する。

無数の炎の鎖の塊だったみたいで、父はそれを無視して刀を構えた。


「だが、その術はまだ生きている! 死ね、宗次郎!」

「秋月流奥義――――」


刀を頭より高く掲げ、横持ちに握るその姿勢を取る父。


「踏雪無痕」

「があッ....!?」


見えなかった。

父は一瞬でマルコシアスの眼前へと移動し、その刀で袈裟斬りにした。

白い粒子が舞い、マルコシアスの体が消えていく。


「ふふ.....強いじゃないか。だが.......逃がさない!」


直後、マルコシアスの体が強い光を放つ。

見たことがある、自爆する気だ。


「させない」


私は一気に飛び出して、父の横を通過。

マルコシアスの体を掴んでそのまま遥か上空へと飛び上がる。


「お前は......?」

「卑怯者に語る名など無い」


私はそのままマルコシアスを放り捨て、自爆を中断させられた彼女は闇に溶けていくのだった。







翌朝。

私は思い切って父に尋ねてみる事にした。


「お父さん、昨日の夜はどこに行ってたの?」


私の質問に対して、お父さんは「しまった」といった顔をした。

私にそれを知られることを予想もしていなかったといった表情だ。


「........ちょっとした用だ」

「それって浮気?」

「ち、違う」


珍しく取り乱す父。

予想もしていない問いだったのだろう。

それが真実を語っているようで、私は少し嬉しくなる。

これは多分死ぬまで一途だろう。


「知ってるよ、マルコシアスと戦ったんでしょ」

「なぜ....?」

「私にも密偵くらいいるんだから」


密偵・クロウ。

しかしその姿は世を忍ぶ仮の姿....その正体は王妃で....じゃないけど。


「そうではない、どうしてお前があの者の名を知っているんだ?」

「あれらは、私がずっと――――殺してきたから」

「? 同じ名前なのか? 組織で同じ――――」

「違うよ」


私は躊躇せずに最後まで言う。


「奴らは、マルコシアス、ガルム、フェンリル、マーナガルム。それぞれ五人の複製体なんだ」

「つまり、全く同じ存在が、同時に二人以上いるという事か?」

「そう」


その悍ましさは、想像を絶するものだ。

しかし、お父さんにとってはその事よりも、別の事の方が大事だったようだ。


「お前は....ずっと殺してきたと言ったな。.......人の形をした者を斬る覚悟を、既に持っているんだな?」

「うん」

「.......今は再び暗雲が来ている。だが、お前一人では...」

「分かってる。でも」


私はお父さんが言わんとすることは分かる。

私一人で背負わなくてもいいんだよ、と言いたいんだろう。


「私は別にひとりじゃないから」

「そう...か、お前にも友人が出来たんだな」

「”にも”って何?」

「変わった子だったからな、学院に行って変わったようだ。それとも....」

「類友ではないからね」

「ハハハ、そうだろうな」


私とお父さんは、しばし会話を続けるのであった。



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