Ep-699 帰還
というわけで、私を巻き込んで起こった、ちょっとした事件は終わりを告げた。
これをちょっとした、で済ませるのはいかがなものかと思う人もいるだろうけれど、今回回収できた物も大きい。
私ほどの存在を何も出来なくさせる、古代の幽閉獄。
「術式を解析すれば、多分人間なら誰でも使えるはずです」
と、フューレが言っていた。
なんでも、「血統術式」という種類の術式であり、魔族や魔物に流用されるのを防ぐ目的がある。
神聖陣の専門家がいないので、フューレ、アルフェに任せているのが少し不安だ。
何しろ、神聖と付く時点で魔物には有害だからだ。
「神聖技のエキスパートが、今のところ神しかいないんだけど.......」
彼らは長く顕現できない。
理を乱してしまうからだ。
「天界に持ち帰って調べてもらうのもいいかな」
多分だけど、太陽神か月神あたりなら何か知っていると思う。
ただ、やっぱり.......
「古代神と会いたいな」
海神の記憶にあった光神や、炎神に会えればいいんだけど。
........そういえば、炎神ってプロメテウスって名前だったよね。
魔王の方と何か関係あるのかな?
「.............まあ、いいか」
私はスキーズブラズニルの甲板で、風を浴びていた。
馬車で帰るのも面倒だから、乗せてもらう事にしたのだ。
リュートとジェラルディンも一緒だ。
「ウル」
『はい』
「ここから先、私の実家が危なくなる時は絶対に来る。.......だから、ヘリオス=ソルの次期ロットをこっちに回して」
『優先タスクにて実行いたします』
「うん」
幻獣は人の弱みに付け込む。
だから、きっと私の身近な人たちを敵として差し向ける。
利用されないように、出来ることは全てやっておかなければいけない。
「まあ、もうちょっと高速詠唱できるようにしないと」
邪心浄化の奥義は、もっと速く........いや、神聖文字に置き換えれば簡易術式に繋げられるだろうか?
文節で区切って術式を呼び出せば........
「アー.......いや、ルト? カイナ?」
神聖文字を学ぶのは大変だ。
王国語よりずっと。
「多分、短縮詠唱なら............〈発陣〉」
〈神業操奏盤〉を短縮詠唱で呼び出す。
これを何とか、オーグマクロックに適用できればいいんだけど。
「神聖力の方が強すぎるか.......」
魔力との相性は最悪だから、私はこれを全く新しい力として扱っていかないといけない。
でも........
「まだまだ上があるって事だよね」
五次突破に必要な条件を満たしていない私は、200以上のレベルに到達できない。
だから、まだまだ強さを極められるという事は大きいことだ。
強くなればなるほど、幻獣を釘付けにできる。
大切な人を守る事が出来る。
「そうだ、魔皇剣........」
その時私は思いつく。
魔王魔術の制御デバイスと化している魔皇剣と同じ役割を持った神剣を創造できれば、と。
無論、簡単な事じゃない。
魔皇剣自体、魔剣のような見た目をしているが、その実態はとんでもなく複雑な魔術と権能の集合体。
これと同じことをするなら、私もそれ相応の努力が必要だ。
「やってやる」
それくらい、いくらでも暇潰しに出来る。
私は、雲間から見えてきたフォールオースを眺めつつ、密かに決意するのであった。
「ユカリ、大丈夫だったか、よかった!」
家に戻った私は、お父さんに強く抱き締められた。
息ができない、というほどではないけれど。
「うん、私は大丈夫だった」
「イグアスにやられたのか?」
「ちゃんと振ってきた!」
「よし、偉いぞ!」
私はお父さんとハイタッチする。
その光景を見ていた後ろの面々のつぶやきが聞こえてくる。
「ユカリって、真面目な時との落差が激しいよな」
「宗次郎殿は厳格な人だと聞いていたが......そうでもないのか?」
ジェラルディンとリュートに伝えるため、私は後ろ手に親指を下に向ける。
二人はそれで聴かれていたことに気づいたようで黙り込む。
「偉いわ、ユカリ」
「お母さん」
「今回の件は、変な虫を払う方法を教えなかったお母さんのミスね」
笑顔で怖い事を言うお母さん。
そういえば、お父さんとお母さんの馴れ初めってどんな感じなんだろう?
トーホウでのお父さんの話を聞く限り、今のおしどり夫婦になるにはそれなりの過程が必要そうだけど。
「それにしても、お父さんはお前のドレス姿を見たかったな」
「もう......」
「今度見せてくれないか?」
「今度ね」
お父さんも見たかったのだろうけれど、私はあれをもう着るつもりはない。
だって恥ずかしいし。
親しい人に「うわキツ......」って思われるのは恐怖でもある。
「あなた、そろそろ離しておやりなさい」
「ああ、すまん」
お父さんは私から離れた。
温もりが冬の肌寒さに溶けていく。
「こんな格好で外にいたら風邪を引くだろう、中へ入るといい」
「うん」
私はみんなを伴って屋敷の中へ入る。
「もう少し滞在するのか?」
「うん、その予定」
「......そうか、分かった」
お父さんは一瞬悩むような表情を見せたが、直ぐに笑顔へと戻る。
それが少し引っかかったけれど、私は何より無事に帰れたことの方が嬉しかった。
「リュート、ジェラルディン、明日は登山に行こうよ」
「あ、ああ......いいけどよ」
「構わない」
コルは修行中だから無理だとして、アルセインは誘っても大丈夫なはず。
フォーランド南部にあるべティム山脈にピクニックに行こう。
そうすれば、この心の傷も少しは癒える筈だから。
深夜。
私はふと目を覚ました。
屋敷に張り巡らされている結界に、何か干渉があったような気がしたからだ。
私は武器を片手に外へと出て、そこで見た。
遠くへ向けて駆けていく父の姿を。
「......気になる」
まさか、浮気じゃないよね?
私はそうだったら母に言いつけてやるつもりで、その後を追ったのだった。
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