Ep-697 ユカリ救出
「っと.....ヤバいな」
魔物たちと共に地下へ踏み込んだジェラルディンは、あるものに直面して顔を引き攣らせた。
「これは.....魔導連射砲台の防衛ラインというわけか」
リュートが呟く。
彼はいつの間にかモノクルを身に着けており、そのモノクルで魔力反応を探っていた。
一本道の広い通路に見えるが、あちこちに魔導連射砲台が設けられており、下手に踏み込んだ者を攻撃する仕組みになっている。
だが......
「安心されよ、ジェラルディン殿――――〈跳刃満界〉」
足を踏み出したゼパルが剣を振る。
振った剣から斬撃が飛び、その斬撃は手前にあった砲台を破壊。
そこからさらに別の方向へ反射し、更に砲台を破壊する。
五分経つ頃には、砲台はほぼ全滅していた。
「さあ、進むぞ!」
オーディンがそう宣言し、魔物たちは一斉に地下へと雪崩れ込む。
しかし、直ぐに壁にぶち当たった。
「......これは?」
「任されよ」
壁に刻まれた紋章を、ゼパルが右手を構えて発光させた。
そして、壁に無数の幾何学模様が走り、開いていく。
「ゼパル殿、これは?」
「古代の人間が作った牢獄だろう。神族が関わっているが、流石に今では管理下には無いようだな。魔族の解除術式にも反応するようである故」
神・魔族専用の牢獄が、今や魔族に与する者に利用されている。
何たる皮肉な話か。
ゼパルは自嘲するように笑った。
「しかし、所詮は人族の被造物。我等の敵ではない」
「(人間がいるのに言う事か?)」
ジェラルディンは呆れていたが、その内心の呟きを拾うものは誰もいなかった。
その時、警報が鳴り響き、魔導人形らしき騎士風のゴーレムが襲い掛かってくる。
が、
「木偶人形風情が」
オーディンに斬って捨てられた。
魔族よりも弱い存在に興味はないと言った様子である。
そのまま彼らは突き進み、そして――――
「くっ、魔物だと!?」
「残念だったな、人間もいるぞ」
最奥部にたどり着く。
立派な扉の前で、狼狽しきったイグアスが待っていた。
堂々と足を踏み出したリュートが、イグアスの前へ躍り出る。
「お前は......死んだはずだ!」
「詰めが甘いな、この通り生きている」
「くっ.....魔物などと結託して!」
「この魔物は、全てユカリの配下だ」
「違う!」
イグアスは激昂を露にする。
異常なほどに。
「ユカリは...ユカリは、優しくて真っ直ぐな子だ、俺は騙されないぞ! 魔物に魂を売った悪魔が!」
「はぁ...」
リュートは漸く理解する。
イグアスがユカリを攫ってまで手元に置こうとした理由を。
「だが、ユカリは王妃である。つまりは、お前は人の婚約者を奪おうとした訳だが?」
「違う、俺はそんなことはしていない! あのクソ王子は、純粋なユカリを騙して手籠にしたに違いないんだ!」
「ぶっ、はははははは!」
その時、ジェラルディンが噴き出した。
耐えられない様で、彼はそのまま爆笑する。
それをBGMに、リュートは確信を覚えた。
「お前は、子供時代のユカリから目を離せなくなった哀れな人間なんだな」
「黙れえええええっ!」
イグアスは剣を抜いて襲い掛かってくる。
しかし、魔物の誰もが動かない。
命令がなければ余計なことはできない兵だけではなく、ゼパルもオーディンも。
ジェラルディンすら、動いてはいない。
「そんな目的のために...ユカリを攫ったか!」
リュートが動く。
隙だらけのその斬撃を躱し、イグアスの顔面に向けて殴打を放つ。
鈍い音がして、イグアスが一瞬宙に浮いた。
「(スゲェ。リュートが怒ってるのはそうそう見ないぞ)」
ジェラルディンはわざと仕掛けなかった訳ではなく、リュートの、彼を知る者でなければ分からないほどわずかに漏れ出た怒気に“ビビって”いたのだ。
「このクソ野郎が」
リュートは倒れたイグアスを踵で踏み付け、起きあがろうとする彼を何度も鞘に収めた剣で殴り付けた。
イグアスが動かなくなった時、リュートは漸く怒りを収めた。
「...治療できる者はいるか?」
「あ、ああ...ミドルヒール」
オーディンが、ズタボロになったイグアスを回復する。
それでも完治はしないが...
しかし、その場にいる誰もがリュートの怒りを知っていた。
だからこそ、咎める者もいないのであった。
奥の部屋に踏み込んだリュートは、ユカリの姿を見た。
丸い檻の中で、体を丸めて眠っている。
「ユカリ! くっ!」
剣を抜き、ジェラルディンが檻に斬りかかるが、スキルを伴った一撃でも傷を付けられない。
むしろ、剣が弾かれてしまう。
「ジェラルディン殿、下がれ。そのような格の低い魔剣では破壊することなど出来ぬ」
「格が低い.....? 一体何百万オルクしたと思ってんだ!」
ジェラルディンは怒るが、ゼパルは前に進み出て、赤黒色の大魔剣を取り出した。
「使い終われば、貴殿に譲ろう」
「話はまだ終わって――――」
ゼパルの右腕が消えると同時に、檻の前面部が一瞬で切断された。
「それ」
「おわっ!?」
ゼパルから魔剣を受け取るジェラルディン。
「その魔剣は普段使いするものではない故、普段はそちらのなまくらを使うと良い」
「チッ、分かってるよ」
ジェラルディンは舌打ちしつつも、ゼパルの強さを認めるのであった。
二人を放置して、リュートはユカリの元に駆け寄った。
「大丈夫か...!?」
「ん.....りゅー、と?」
目を開けたユカリはリュートの顔に視線を向け、直ぐに視線を下に向ける。
そして、左右を見て。
「わああっ!?」
「なっ!?」
リュートを振り払った。
「ご、ごめん」
「あ、ああ....構わないが...」
直ぐに謝られたが、リュートは大ダメージを受けて撃沈に至った。
ユカリはリュートを放置して、その後ろの面々を見る。
「助けに来てくれたんだ、ジェラルディン、ゼパル、オーディン.....それに、グローリアス・ユニオンの皆」
「おう」
「当然で御座います」
「同じく」
背後で寂しい背中を晒すリュートを放置して、ユカリは皆に感謝を述べるのであった。
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